研究課題/領域番号 |
17H01909
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研究機関 | 国立保健医療科学院 |
研究代表者 |
秋葉 道宏 国立保健医療科学院, その他部局等, 部長 (00159336)
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研究分担者 |
原本 英司 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (00401141)
小坂 浩司 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60370946)
越後 信哉 国立保健医療科学院, その他部局等, 上席主任研究官 (70359777)
三浦 尚之 国立保健医療科学院, その他部局等, 主任研究官 (70770014)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ウイルス / バクテロイデス / カルバマゼピン / 残留医薬品 / ソーストラッキング / 地下水 |
研究実績の概要 |
平成30年度は,平成29年度に考案した高効率な地下水試料からのウイルス・細菌濃縮法(試料をろ過した混合セルロースエステル膜から直接核酸を抽出する手法)を用いて,地下水の病原微生物汚染実態調査を行った。水道原水として使用されている深井戸の試料(N=13)では,ノロウイルスGIIおよびロタウイルスAは不検出だったが,2検体から糞便汚染指標として提案されているトウガラシ微斑ウイルス(PMMoV)が検出された。 浅井戸の試料(N=61)は,4検体(6.6%)がノロウイルスGII陽性であり,濃度の最大値はおよそ300 copies/Lだった。PMMoVは上記とは異なる13検体(21%)で陽性で,濃度の最大値は4700 copies/Lだった。ロタウイルスAは,不検出だった。また,下痢症や敗血症を引き起こすアルコバクター属菌が3検体から検出され,当該試料はPMMoVも陽性だった。大腸菌およびPMMoVは,ノロウイルスGIIが検出された試料では不検出であり,地下水ではノロウイルスGIIを直接検査するか,地下水中の挙動が類似した指標を選定することが重要と考えられた。宿主特異的バクテロイデス目細菌遺伝子は,ヒトおよびに反芻動物に特異的なマーカーがそれぞれ1検体から検出された。 さらに,収集した試料(N=74)を対象にヒト下水汚染の化学物質マーカーとして提案されているカルバマゼピンの濃度を測定した結果,31検体から検出され(検出下限値はおよそ0.6 ng/L),濃度の最大値は35 ng/Lだった。そのうち微生物が不検出の試料は80%程度含まれていたが,汚染源にカルバマゼピンと同様に地下水中を移動できる微生物が含まれる場合には,当該井戸が微生物に汚染されるリスクが高いと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,国内の地下水における病原ウイルス・病原細菌の汚染実態を把握し,科学的根拠に基づいたリスク管理手法を提案するために,以下の4つのタスクに取り組むこととしている。タスク1:地下水中の病原ウイルス・病原細菌の濃縮手法の確立。タスク2:地下水に対する微生物学的・化学的ソーストラッキング手法の適用性評価。タスク3:国内の地下水における病原ウイルス・病原細菌の汚染実態調査。タスク4:定量的微生物リスク評価に基づく消毒処理における微生物不活化要求量の算定。 平成30年度は,当初の計画通りタスク2および3の研究を遂行し,併せてタスク1で確立した手法の有用性を確認した。タスク3では,国内で初となる地下水の病原微生物汚染実態調査を実施できた。その結果,実際に飲用されている浅井戸試料からノロウイルスGIIやアルコバクター属菌遺伝子が検出された。また,化学的ソーストラッキングマーカーとしては,残留医薬品類の一つであるカルバマゼピンを測定し,微生物汚染との関連を調査した。以上の結果から,今年度は実施計画に沿っておおむね順調に研究を遂行することができたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に引き続き,地下水の病原微生物汚染実態調査を継続し,さらなるデータの蓄積を目指す。具体的には,50検体を目標に浅井戸の試料を収集し,ノロウイルスやロタウイルスなどの病原ウイルス,およびアルコバクター属菌などの病原細菌を試験する。微生物マーカーとしては宿主に特異的なバクテロイデス目細菌遺伝子,化学物質マーカーとしてはカルバマゼピン等の残留医薬品類を測定する。また,既往の微生物・化学物質マーカーに加え,一般水質項目として大腸菌や濁度等も測定する。病原微生物や微生物マーカーの定量検出には,リアルタイムPCR装置を使用する。さらに,病原ウイルス・病原細菌が陽性の地下水試料に対して次世代シーケンサーを用いてメタゲノム解析を行い,上述した検出対象以外の細菌も網羅的に検出し,汚染実態を詳細に調査することを目指す。地下水を取水する小規模の水道施設や飲用井戸では,一般的に消毒処理のみで水が供給されることが多いため,検出された病原ウイルスおよび病原細菌の濃度に基づき,人為的なミスによる消毒処理不良を安全率として勘案しながら定量的微生物リスク評価のアプローチを適用して,消毒処理における微生物不活化要求量を算定する。
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