研究課題/領域番号 |
17H01914
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研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
有薗 幸司 熊本県立大学, 環境共生学部, 教授 (70128148)
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研究分担者 |
冨永 伸明 有明工業高等専門学校, 創造工学科, 教授 (30227631)
石橋 弘志 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (90403857)
吉田 佳督 修文大学, 看護学部, 教授 (90506635)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エクインエストロゲン / メダカ / パスウェイ解析 / 発生毒性 / 高電界パルス印加法 |
研究実績の概要 |
エクインエストロゲン(EQs)は、妊馬の尿中から検出されるステロイドホルモンであり、医薬品の原料としても使用されている。欧米では、下水処理水などからEQsが検出されており、水生生物への影響が危惧されている。昨年度まで、北海道河川水からEQsの一種であるエクイリン(Eq)やエクイレニン(Eqn)を検出し、日本の水環境におけるEQsの存在実態を初めて明らかにし、Eqを3週間曝露したメダカにおいて、産卵数の減少や次世代胚の孵化率の低下を明らかにした(Ishibashi et al., 2018)。本年度は胚の孵化率の低下のメカニズムを明らかにすべく高電界パルス印加法を用いてメダカ受精卵にEq及びEqnを導入し、発生毒性と胚トランスクリプトームに及ぼす影響を調査した。結果としてEq及びEqn共通して主に神経発達や細胞接着などの発生影響に関与するパスウェイが同定された。また、Eq特異的にレチノール代謝の撹乱による胚の奇形に関与するMAPK signaling, retinol metabolismパスウェイ、Eqn特異的に細胞の分化や増殖などへの影響するcytokine-cytokine receptor interactionパスウェイが確認された。さらにゼブラフィシュ胚を用いてエクイン類のエストロゲン作用のED50はエクイン類の相互作用スコア(S-Score)との間で有意な正の相関をもつことと、Eq、Eqnは17位がカルボニル基からα、β体のヒドロキシ基になることでエストロゲンレセプター結合性が強化される事実が明らかになった。以上平成30年度はEQsは発生初期における代謝経路の攪乱を惹起、多くの代謝経路に関わるネットワーク系に影響を及ぼし、代謝されさらに強いエストロゲン活性を持つ可能性を明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AOP研究基盤の高度化をめざし、平成30年度までエクインエストロゲンによる胚の孵化率の低下のメカニズムを明らかにすべく高電界パルス印加法を用いてメダカ受精卵にエクイリン及びエクイレニンを導入し、発生毒性と胚トランスクリプトームに及ぼす影響を調査した。結果として、高電界パルス印加法によってエクインエストロゲンは発生初期における神経発達や細胞接着などの代謝経路の攪乱を惹起、細胞の分化や増殖に関わる多くの代謝経路のネットワーク系に影響を及ぼしていることを明らかにした。これらの事実は高電界パルス印加法はAdverse Outcome Pathway の概念に基づく有害作用について、分子、細胞、組織、個体レベルの各階層の事象に関する知見を有機的につなぎ、それらの因果関係を評価する手法として有用であることも明らかになった。また、ゼブラフィシュ胚のCYP19A1b遺伝子発現を指標としてエクイン類のエストロゲン作用を評価したところその強さはE2>17β-Eq>17α-Eq>Eq> Eqn >17β-Eqn>17α-Eqnでエクイン類のエストロゲン作用のED50はエクイン類の相互作用スコア(S-Score)との間で有意な正の相関をもつことも示された。さらにメダカ及びゼブラフィシュのエストロゲン受容体のインシリコ解析系を構築しこれらの評価系がエストロゲン作用を示す内分泌かく乱物質検出評価ルールとして活用できる可能性を示した。これらの事実からおおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度までの研究で、エクインエストロゲンは発生初期における代謝経路の攪乱を惹起、多くの代謝経路に関わるネットワーク系に影響を及ぼしている可能性を明らかにでき、エクインエストロゲンの生態リスクの一端として発生毒性を指摘できた。AOP研究 また、高電界パルス印加法はAdverse Outcome Pathway の概念に基づく有害作用について、分子、細胞、組織、個体レベルの各階層の事象に関する知見を有機的につなぎ、それらの因果関係を評価する手法として有用であることも判明した。平成31年度は水環境中の内分泌かく乱物質の生態リスク評価としてAdverse Outcome Pathway研究基盤の高度化をめざし、エクインエストロゲンの発生後期における解析をすすめ、孵化の遅延、血栓、心拍・血流の異常、尾部湾曲などの奇形発生について詳細に調査を進める。さらにエクインエストロゲンの残留性や蓄積部位に関する知見についても精査し、各臓器内での環境化学物質代謝を触媒するCYP遺伝子やビテロゲニン遺伝子発現などのバイオマーカーを指標としてエクイン類の生理的作用やエストロゲン作用を評価していく予定である。一方で、メダカ及びゼブラフィシュのエストロゲン受容体のインシリコ解析評価系を活用しエクインエストロゲンのみならずエストロゲン作用に起因する知見を蓄積し、Adverse Outcome Pathway 研究基盤の高度化を目指していく。
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