研究課題/領域番号 |
17H01916
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
横溝 裕行 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 主任研究員 (30550074)
|
研究分担者 |
宮下 直 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (50182019)
中島 啓裕 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (80722420)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 哺乳類 / 個体群管理 / 行動介在間接効果 / 個体数推定 / 農業被害 |
研究実績の概要 |
本年度は、房総半島において、人間活動による大型哺乳類の行動変化を組み込んだ個体群管理戦略を構築するために現地調査を行い、イノシシを対象にして、密度と生存・繁殖に関わる生活史パラメータの推定を行った。房総半島の中西部に182台の自動撮影カメラを2㎞間隔で設置し、景観スケールでのイノシシの個体数密度を推定するとともに、その多寡に影響を与える環境要因を推定した。さらに、連れ子数の時系列の変化を追うことで、産仔数および幼獣生存率を推定し、これらの生活史パラメータに影響する環境要因についても明らかにした。個体数密度の推定は、密度推定モデルRESTモデル(Nakashima et al. 2018)を用いて行った。この結果、(1)イノシシ成獣の個体数密度は人里近くの環境で高くなること、(2)産仔数の空間的な変動性は小さいこと、一方で、(3)幼獣生存率は人里近くの環境で低くなることが分かった。すなわち、人里近くでは、イノシシの個体数密度が高い反面、幼獣の死亡率も高かった。 また、自動撮影カメラと捕獲数のデータから個体数と個体群動態に関わるパラメータを推定するための統計モデルを構築した。駆除個体数の変遷はシカとイノシシについて利用可能であり、密度と増加率の推定の中核をなすデータである。さらに、シカについては、房総シカ調査会らが長年蓄積してきた糞粒の空間分布データを用いた。将来の人口や土地利用シナリオを反映したシカとイノシシの最適管理戦略の探索を行うために、まず現状の人間活動のもとでの最適管理戦略の探索モデルを構築した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
自動撮影カメラと捕獲頭数のデータを用いた個体数を推定するための統計モデルは、データの質と量に対して複雑であるために、統計モデルの改良が必要になった。また、農業被害の程度を予測するために個体数の推定値が必要であり、農業被害の程度を予測するためには、もう少し時間が必要である。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、これまでの研究で明らかになった「イノシシの幼獣生存率が人里近くで低くなる」という現象が、人為的な捕獲の直接の効果であるのか、あるいは行動変化を介在した効果も認められるのかについて詳細に解析する。イノシシ幼獣の捕獲頭数の推定値を、市町村で取得された箱罠およびくくり罠による捕獲データと照合し、その多寡を比較する。 自動撮影カメラと捕獲頭数のデータを用いて、シカとイノシシの局所密度と個体群パラメータの推定を行い、農業被害率の予測モデルを構築する。人為影響と動物の局所密度、景観構造から農業被害率を推定する。さまざまな人口や就農動態のシナリオに対して、2×2kmメッシュごとに各種農作物の被害の予測を行う。構築された個体群動態モデルと被害率の予測モデルをもとに、様々な制約条件(予算や人的資源)の中で、将来の人口や土地利用シナリオごとに捕獲努力の最適な空間配分を導出する。
|