研究課題/領域番号 |
17H01938
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
森杉 雅史 名城大学, 都市情報学部, 教授 (00314039)
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研究分担者 |
大野 栄治 名城大学, 都市情報学部, 教授 (50175246)
中嶌 一憲 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (70507699)
金 広文 京都大学, 経営管理研究部, 准教授 (80335108)
坂本 直樹 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (80367937)
森 龍太 名城大学, 都市情報学部, 助手 (80782177)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 環境クズネッツ曲線 / 統計的生命価値 / オプション価格 / オプション価値 / 幸福度調査 / 上下水道 / 途上国 |
研究実績の概要 |
水質汚染に起因する死亡率の削減を、主に対象国の上下水道事業に代表される生活関連型社会資本の整備というOptionによって図ると想定した時、本研究課題におけるその便益を求める評価方法は下記のような二通りに大きく分かれる。 Ⅰ)代表者らの既往研究で培った調査票を応用し、対象国において【CVMアンケート】を実施し、人々のOptionに対する直接的なWTP(あるいはOP)を推定し、AVSLやMVSLを算定する。 Ⅱ)対象国において【幸福度調査】を実施し、任意の効用関数の定式化の下、人々のRRAを推定し、MRS法によるVSLを算定する。 本研究課題では経済発展プロセスにおける適切なオプション整備開始のタイミングを追求するため、カンボジア(調査済み)やインド(R1に調査予定)においてⅠ)の実施を図っている。Ⅰ)はリスクが具体的であり被験者がイメージしやすいという利点を持つ。Ⅱ)の手法はOECD(2012)もVOLとして各国調査の際に採用しており、死亡率削減の大きさに依存しない統計的生命価値を算出しえるため、様々な事業や施策の評価に応用が効くものとして期待される。また研究代表者らは既往研究にてⅠ)はCV系・EV系オプション価格モデルとして理論定式化することが可能であることを示し、その延長上で死亡率削減を0近傍にて正負いずれの方向からも極限をとるとⅡ)のMRS-VSLに一致することが分かっている。しかし、正確なMRS-VSLの算出のためには精密なアンケートの実施とパラメータ推定、導出過程の適切の吟味が必須であり、AVSLとの漸近性と相違点の由来を模索するためには途上国への調査では無理がある。そのため本年度では日本において10000サンプル数で幸福度調査、4000で熱ストレスCVM調査(死亡率・削減率が高い)を実施し、既往のCVM調査と比較しながら、両評価指標の有効性を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度においては、2017年度において未実施であった中国における【CVMアンケート】と【幸福度調査】の実施を予定していたが、カウンターパートである桂林理工大学の協力者の予定や条件が揃わず、断念するに至った。また、本研究課題の共同研究者と共に議論した結果、途上国では被験者の病理学的なリテラシーが低く、正確なMRS-VSLの算出のためには精密なアンケートの実施とパラメータ推定、導出過程の適切の吟味が必須であり、調査の実施可能性が危ぶまれることとなった。 そこで2018年度では、日本において10000を超えるサンプル数で幸福度調査を、4000サンプル数相当で熱ストレスCVM調査(死亡率・削減率が高い)を実施した。これらの結果と共に既往のCVM調査結果と比較しながら、CVMから得られるAVSL、幸福度調査から得られるMRS-VSLについて、理論的側面からの検討も含めて、それらの近似性と違いについて吟味することとした。これらの成果は次年度以降に編纂して積極的に海外へと発信すると共に、本研究課題の継続課題と目しているOECDとの共同研究に生かす所存である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は最終年度であるので、本研究課題では既に実施した調査内容を解析して積極的に海外の学会に成果として発信していく。具体的には①カンボジア水質汚染CVM調査とAVSL、②日本幸福度調査とMRS-VSLあるいはVOL、③日本熱ストレスCVM調査とAVSLである。 併せて、インドでは水質汚染に因む死亡率削減に関するCVM調査を実施する。調査地はムンバイその他を予定している。同調査結果についても従来通りAVSLの導出を試みる。 これらの材料の範疇内ではあるが、水質汚染に対する環境クズネッツ曲線仮説の成立の是非について吟味していく。また、MRS-VSL、VOLの有効性についても言及していく。 なお、2019年二月にはパリOECD本部にてOECD(2012)レポートの第一筆者 Nils Axelにヒアリングする機会に恵まれ、活発に意見を交わし、本研究課題の継続課題について共同研究をすることについてもご快諾いただいている。現在OECDではNils氏の主導の下で大気汚染の疾病(死亡を必ずしも伴わない)を対象として、世界規模でのリスク評価を試みている。これに関して2019年夏季に研究会がパリで開かれる予定で、代表者の森杉と研究分担者の大野はその参加を許されている。OECDでは目下アジアの途上国方面での調査実績がそれほどなく、先方からは本研究課題で培った調査技法による貢献が期待されている。目下予算的にもそれほどのサンプル数は見込めないのだが、同研究会で設計された調査票の有効性・妥当性を検証するべく、インドではそのプレ調査も併せて実施する予定である。
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