研究課題/領域番号 |
17H01955
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
乾 滋 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (10356496)
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研究分担者 |
堀場 洋輔 信州大学, 学術研究院繊維学系, 准教授 (00345761)
高寺 政行 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (10163221)
召田 優子 長野工業高等専門学校, 電子制御工学科, 講師 (20757893)
金 キョンオク 信州大学, 学術研究院繊維学系, 准教授 (30724885)
宮武 恵子 共立女子大学, 家政学部, 教授 (40390124)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 立体裁断 / 仮想化 / 衣服 / 型紙 / 着装シミュレーション / AR |
研究実績の概要 |
本研究は立体裁断の仮想化を目指している.衣服の設計図である型紙の設計法には平面作図と立体裁断があるが,本研究では人体にフィットする衣服の作成が可能な立体裁断の仮想化を目指す.立体裁断では四角い布片を人台表面に沿わせ,余った部分の布を切り取り,平面に展開することで型紙形状が得られる. 立体裁断を仮想空間で行うためには,立体裁断の要素をモデル化することが必要で,布,手,人台などシステムの構成要素をモデル化した.これらを統合して,簡単な構造の衣服型紙の設計が可能な基本システムを構築した. 2019年度はこれまで構築してきた仮想立体裁断の基本システムの機能拡張を行った.これまでに構築したシステムではタイトスカートの型紙設計を対象としており,そのために必要な機能を実現している.しかし,機能の中にはタイトスカートに特化して実現したものもあり,幅広い服種の設計に必ずしも対応できる状況とはなっていない.例えば,ジャケットやワンピースなどの上衣を含む服種を設計するためには,様々な方向にダーツを作成することが必要である.また,上衣の場合には襟や袖周りを型紙の輪郭線として切り取る必要がある.2019年度には,これらの2点についての機能の拡張に着手した.一つは,これまで垂直方向に限られていたダーツの作成を,任意の方向に作成するための拡張である.もう一つは,これまで水平や垂直の平面と布モデルとの交点によって作成していた型紙の輪郭線を,襟や袖の部分のように曲面と布モデルとの交点によって決定するための拡張である. また,衣服設計の仮想化の基礎となる研究を進め,それらの知見を取り入れている.動作時の衣服による人体への影響を筋力シミュレーションによる解析,実際の衣服の設計に関する検討,仮想と現実とのインターフェースの検討,などの研究を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
“研究実績の概要”の項で述べたように,構築した基本システムに対し,対応できる服種を増やすためにダーツや輪郭線機能の拡張に着手した.拡張を行う上で若干の問題も発生しているが,ほぼ計画に沿って推移している. 2019年度はダーツの機能の拡張と,輪郭線取得の機能の拡張に着手した.ダーツとは,本来平面である布を立体的な曲面である人体表面形状に沿わせるために,余分な部分を切り取った切り欠きを意味する.例えば,スカートの場合はウエストからヒップへ垂直方向のダーツが取れば良いが,上衣の場合には様々な方向にダーツを取る場合がある.そのため1)ダーツの部分に余った布が浮いたような立体形状を作成し,それをダーツの方向に配置2)その立体形状に布のモデルを写像3)力学計算を行い,布モデルを安定状態とする.4)手のモデルで布モデルをつまみダーツを形成する.現状では手順2)まで完了し,手順3)の力学計算のための衝突の判定についての検討を行っている. 輪郭線取得機能の拡張も行っている.2018年度まではウエストの水平面などの平面と布モデルとの交点から輪郭線が得られた.しかし上衣の場合には襟や袖など,曲線が輪郭線になる部分がある.襟ぐり線が幾何学的に明確に定義されているわけではなかったので,襟について人台の基準点を決め水平面上に曲線を定義し,これを3次元形状の布モデルに射影することで輪郭を求めた.この際力学計算を行い布モデルの安定状態を求めたが,布モデル形状が滑らかでなく襟の輪郭が滑らかにならない.その対応法が必要であることが明らかになり,今後この対応が必要である. また,動作時の衣服による人体への影響の筋力シミュレーションによる解析,現実のシャツや上衣の新たな設計法に関する検討,手指の動きの人工知能を利用した認識の検討,などを行った.
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今後の研究の推進方策 |
上述のように2019年度はダーツと輪郭線の作成の機能の拡張を行った.ダーツの機能拡張については,力学計算の手順を構築中である.これを完成させ既存のシステムに組み込むことで,手のモデルでダーツ部分の布モデルをつまみ,ダーツを作成することができるようになる.襟の輪郭線の作成については,力学計算時の人台表面へ沿わせる部分が現状の問題となっている.これを解決することで,境界線を取り出して型紙の輪郭線が得られる.これを既存のシステムに組み込む.さらに,袖の輪郭線についても作成する必要があるが,襟と同様に作成できると考えられる.これらの拡張を行うことによって,本システムによって様々な上衣の型紙設計が可能となる. さらにシステムの操作性を向上させるために,以下のような改良点の検討が必要となる. 布モデルの手モデルによる操作性に問題がある.これにはいくつかの要因が関係している.ひとつは布の特性であり,布モデルは現実の布と比較すると柔らかく感じられる.この解決のためには,布特性の表現方法,力学計算の手法,力学計算の高速化などの検討が必要である.他の問題は,ダーツ作成時などの布モデル操作の精度である.本システムの操作精度は布モデルのメッシュの細かさに依存する.操作の状況に応じたメッシュサイズを動的に変更することが考えられる.さらに他の問題として,上記の現実と仮想の人台の重ね合わせがあり,これを実現することによって操作性の向上が期待される. また,衣服設計の仮想化の基礎となる研究を進め,それらの知見を取り入れることによってシステムの改善を図る.
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