研究課題/領域番号 |
17H01957
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
市川 創作 筑波大学, 生命環境系, 教授 (00292516)
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研究分担者 |
小林 功 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, 上級研究員 (70425552)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 食品消化 / 固形食品 / in vitro消化 / ぜん動運動 / 栄養成分 / 消化性制御 / 胃腸 |
研究実績の概要 |
初年度となる平成29年度は、消化管運動による物理的消化を評価可能なヒト消化管シミュレーターを使用した物理的・化学的消化性の基礎的評価として、以下の課題に取り組み、研究成果を得ることができた。 (1)ぜん動運動を駆動するローラーの素材を改良したヒト胃消化シミュレーターにおける、力学特性が異なる食品モデル(球状寒天ゲル)の微細化挙動を検討し、既往のヒト臨床試験と同様の微細化傾向であることを示した。ヒト臨床試験において、球状寒天ゲルの微細化度が急激に変化する閾値の存在が報告されているが(Marciani et al., Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver 2001)、ヒト胃消化シミュレーターを使用した消化試験おいても同様の閾値が観測された。この結果から、改良型ヒト胃消化シミュレーターの使用により、ヒトの胃に類似した物理的な微細化環境を再現できることがわかった。 (2)ヒト胃消化シミュレーターを使用して、白米飯粒子の物理的および化学的消化挙動について検討した。物理的消化性については、消化試験の進行に伴い、粒子の微細化および膨潤、ならびに粒子表面からの糊状物質の放出が観察された。一方、化学的消化性については、消化試験の進行に伴い、栄養成分(デンプン質)の人工胃液への放出挙動が変化することをがわかった。本研究成果は、ヒト胃消化シミュレーターが、物理的消化性と化学的消化性ともに評価可能であることを示唆している。 (3)ヒト十二指腸消化シミュレーターに関する研究では、腸壁でのぜん動運動により駆動される内容物(水および色素)の物理的混合・送液の挙動をリアルタイムで観察できた。また、消化酵素を含む人工膵液による栄養成分モデルの化学的分解の挙動を観測し、十二指腸における内容物の流動・混合並びに酵素反応に関する基礎的知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト胃消化シミュレーターの開発以来、課題となっていたヒト臨床試験によるin vivoデータ(文献値)と比較検討を実現し、ヒト胃消化シミュレーターがヒトの胃に類似した物理的な消化環境を有していることを示すことができた。これにより、本装置の実用化に向けた大きな課題の一つをクリアできたと言える。また、ヒト胃消化シミュレーターの使用による、栄養成分の化学的消化性の評価を実証できたことは、本装置の性能を最大限に発揮するうえで非常に重要な成果であると考えられる。さらに、ヒト十二指腸消化シミュレーターについては、ヒト消化管シミュレーターを使用した消化性の総合的な評価に向けて有意義な基礎的知見が得られた。なお、ヒト胃消化シミュレーター等を使用した、タンパク質等の栄養成分に関する胃腸消化性の検討は、次年度以降の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に改良されたヒト胃消化シミュレーターを使用して、タンパク質等の栄養成分を含有した固形食品の消化性に関する系統的な検討を進める。同じ種類・量の栄養成分を含有した固形食品であっても、その力学特性が異なると、食品粒子の微細化挙動や栄養成分の挙動・消化性が変化するものと考えられる。そこで、力学特性が制御されたゲル状の固形食品を用いて、胃消化試験中における固形食品粒子の物理的消化性、胃消化酵素の作用を受ける含有栄養成分であるタンパク質の化学的消化性を評価・比較することにより、固形食品の力学特性が胃消化性に及ぼす影響について明らかにしたい。検討内容に応じて、回分型ヒト胃消化シミュレーター、もしくは人工胃液の供給機能と胃消化物の排出機能を具備した連続型ヒト胃消化シミュレーターを選択する。ゲル状の固形食品の胃消化特性に関する基礎的知見が蓄積された段階で、タンパク質以外の栄養成分も含有する固形食品の胃消化特性に関する検討を進めていく。また、ヒト胃消化シミュレーターから排出された胃消化物に含まれる栄養成分の小腸消化特性についても、検討を進めていく。これらの検討を通じて、固形食品の胃腸消化および栄養吸収の制御に向けた基礎的知見を集積していきたい。
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