研究課題/領域番号 |
17H01957
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
市川 創作 筑波大学, 生命環境系, 教授 (00292516)
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研究分担者 |
小林 功 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, 上級研究員 (70425552)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 食品消化 / 固形食品 / in vitro消化 / ぜん動運動 / タンパク質 / デンプン / 消化性制御 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、栄養成分を含有した固形食品を使用し、消化シミュレーターによる消化特性の評価・解析を行い、以下の知見を得た。 (1)タンパク質含有固形食品のモデルとして牛血清アルブミン(BSA)を含有する寒天ゲル粒子の消化試験を行い、BSAの酵素分解(消化)反応について検討した。その結果、ゲル粒子に含まれるBSAが消化液中に拡散放出されると共に、消化液中の酵素ペプシンがゲル粒子内部に拡散することで、消化液中およびゲル粒子内部の両方でBSAの酵素分解反応が進行することを明らかにした。さらに、消化液に放出されたBSAの酵素分解は速やかに進行するのに対し、ゲル粒子内部では酵素分解が遅く、未分解のBSAがゲル粒子内に比較的長時間残存することがわかった。また、ゲル粒子が胃のぜん動運動に誘起される物理的作用を受けて破砕され微細化されることでBSAの消化液中の放出が促進され、BSAの消化が速やかに進行することを明らかにした。 (2)デンプン含有固形食品のモデルとしてデンプンを含有するゲル粒子の消化試験を行い、デンプンの酵素分解(消化)反応について検討した。ゲル粒子は、寒天とネイティブ型ジェランガムを任意の割合で混合し、破断応力が同程度であるが破断歪率が異なるデンプン含有ゲル粒子を作製し、固形食品に含まれるデンプンの消化挙動に対するゲル粒子の力学特性の影響を評価した。連続型胃消化シミュレーターによる消化試験の結果、破断歪率が小さな脆いゲル粒子の方が、より速やかに微細化が進行し、ゲル粒子に包含したデンプンも胃から小腸へとより速やかに排出されることが明らかになった。また、in vitro小腸消化より、小腸に排出されたデンプンは速やかに加水分解されることがわかった。この結果は、固形食品の力学特性が、食品に含まれる栄養成分の腸への排出、並びに消化挙動に影響する可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度当初に予定した、力学特性が制御されたゲル状の固形食品を使用した消化試験を実施できた。デンプンを含有するモデルゲル粒子を使用した消化試験で、固形食品の力学特性が、デンプンの腸への排出、並びに消化挙動に影響する可能性を示唆する結果が得られた。一方、モデルタンパク質牛血清アルブミン(BSA)を含有するモデルゲル粒子を使用した消化試験では、ゲル粒子の力学特性の影響は顕著ではなかった。この様に、ゲル粒子の力学特性が内包物の消化特性に及ぼす影響を、炭水化物とタンパク質について明らかにできた。得られた結果から、固形食品の力学特性は、固形食品中の栄養成分の存在形態により異なると推察され、次年度さらなる検討を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
力学特性を制御した栄養成分含有モデル固形食品を作製し、消化管運動を模擬したヒト消化管シミュレーターによる消化試験を実施する。モデル固形食品は、前年度に検討した試料と同様に、ゲル化剤である寒天およびジェランガムを使用し、これらのゲル化剤を任意の割合で混合することで力学特性の異なるモデル固形食品としてゲル粒子を作製する。このゲル粒子に食品栄養成分の炭水化物であるデンプンを包含させ胃および小腸を模擬した環境で系統的に消化試験を行い、消化挙動の解析を進める。また、タンパク質含有固形食品のモデルとして、タンパク質のゲル化挙動を利用して力学特性の異なるタンパク質ゲルの作製を試みる。タンパク質をゲル化させる条件を制御することで、様々な力学特性のタンパク質ゲル作製し、消化実験による物理的な微細化挙動とタンパク質の消化挙動を評価し、その相関を系統的に評価する。また、脂質とタンパク質を含む固形食品についても消化試験を行い、消化挙動を評価する。これらの検討を通じて、固形食品の胃腸消化および栄養吸収の制御に向けた基礎的知見をまとめる。
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