研究課題
味蕾甘・旨・苦味細胞と腸管tuft細胞を消失したSkn-1a-/-マウスの体重(内臓脂肪量)減少は、脳内カテコラミン分泌亢進が生じ、血中インスリン低下、脂肪燃焼増大、筋ミトコンドリア酸化増などエネルギー代謝が活発になることを発見した(EBio Medicine 2016)。本研究では、(1) エネルギー代謝調節機構を a)味シグナルと末梢エネルギー代謝調節解析、b)tuft細胞に存在する新規GPCR(X;申請者らが発見)の機能解析と食品リガンドの探索、c)腸(tuft細胞-脳(カテコラミン分泌)相関解析、d)脳神経のエピジェネティクス修飾解析(2)“tuft細胞 = type 2 immunity” (Trend in Mol. Medicine 2016)に関し、X-GPCR-/-マウスによる線虫毒素注入実験を行い、腸管免疫系とエネルギー代謝系の関連性を解析する。腸管におけるtuft細胞の総合的機能を解明する。Tuft細胞における「腸管免疫」と申請者が提唱する「エネルギー代謝調節」の両機能の関連性は国際的にも注目されている。本研究では、自らが作成したS-KOマウスを用い消化管tuft細胞を起点とする食品摂取に伴うエネルギー代謝調節機構を腸-脳相関から解析し、食品機能の新側面を提案することを目的とする。「食品因子が味覚シグナルや腸管シグナルを介して、脳に伝達され、脳から身体のエネルギー代謝を調節し、エネルギー恒常性を維持する」研究成果は、栄養・嗜好・生理応答等統合的な食品機能学の学術面のみならず健康科学一般に貢献し、食品・健康産業と社会的にも大きな影響を与えると期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
(1)エネルギー代謝調節機構の解析エネルギー代謝調節に関連する味細胞と消化管刷子細胞の役割を解明するために、高脂肪食(HFD)を摂取させたS-KOマウスおよび野生型(WT)マウスの糖代謝における刷子細胞の役割を解析した。OGTT, IPGTT, ITT, HOMA解析を行い、野生型とSkn-1(-/-)マウス間で比較した。その結果、OGTT解析において血糖値の経時的変化には両群間で差がなかったが、グルコース投与15分後における血漿インスリン濃度が、Skn-1(-/-)マウスは野生型の約45%であった。一方、インスリン分泌促進ホルモンであるGIPの分泌量は両群間で差がなかった。また、IPGTT, ITT, HOMA解析から、膵臓インスリン分泌能とインスリン感受性にも両群間で差がないことが分かった。以上の実験結果より、刷子細胞がグルコースセンサーとして働き、GIP非依存的にインスリン分泌を促進していることが示唆された。高インスリン血症は肥満を誘導することから、インスリン分泌量が少ないSkn-1(-/-)マウスでは肥満が抑制される可能性が考えられた。そこで、高脂肪食給餌条件下でOGTT, ITT, HOMA解析を行った。その結果、Skn-1(-/-)マウスは、野生型と比較して高脂肪食摂取による体重増加が約20%抑制され、耐糖能低下とインスリン抵抗性が緩和されていることが分かった。このことから、Skn-1(-/-)マウスではインスリン分泌量が少ないために高脂肪食誘導性の肥満が抑制されることが示された。(2)刷子細胞機能の解析X-GPCR-/-マウスがS-KOマウス同様に体重が減少することを明らかにした。また、X-GPCR-/-マウスに線虫を注入したが、小腸内には線虫が残存せず、X-GPCRは刷子細胞のエネルギー代謝系にのみ関与することが分かった。
味(甘・旨・苦味)細胞と刷子細胞を欠失したS-KOマウスをモデルとしてエネルギー代謝系と免疫系の両機能の機構解析を目的としたが、今後、エネルギー代謝系に焦点を絞ることにした。H29年度までに、S-KOマウスでは、糖・脂質代謝系の制御、エネルギー代謝の活性化による体重減少、そしてカテコラミン分泌上昇がエネルギー消費量の増大を引き起こすという仮説を構築し、その検証研究を推進することにした。したがって今後は、エネルギー消費量亢進のメカニズムを、摂食と脳機能の関連性や、脳腸軸機構を解明する研究を計画している。H30年度以降は、(1) エネルギー代謝に関わる組織(肝臓、白色脂肪組織(WAT)、褐色脂肪組織 (BAT))の遺伝子発現解析、および (2)摂食(HFD)によるカテコラミン量上昇の分子メカニズムを視床・視床下部の遺伝子発現から解析する。具体的には、a) S-KOマウスのBATの遺伝子発現解析:BATの重量の増加の質的状態をしらべるためにDNAマイクロアレイ測定を実施する。どのようなパスウェイが亢進しているかを解析する。b) 視床・視床下部の遺伝子発現解析:視床下部はエネルギー代謝に関わると言われ、BATの働きも制御する。視床と視床下部を合わせてサンプリングしDNAマイクロアレイ解析を実施する。c) 脳におけるc-fosの発現解析:脳腸相関の解析法として、消化管(口腔・小腸)からの脳(視床・視床下部)への活性化状態をc-fosを用いた可視化実験を行う。
Nature, SPOTLIGHT ON;Food Science in Japan Vol.543,March 30, 2017 世界580万部配布「Developing functional foods for the next generation」等、内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術「次世代機能性農林水産物・食品の開発」の紹介記事が掲載された。
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