研究課題
腸上皮には、摂取した食品成分の情報を感知し、独自に吸収調節する自律性が機能する。しかしながら、多くの食品成分の代謝に、自律性の吸収調節が関与しているにもかかわらず、その仕組みが腸管の「どこで」「どのように」機能するかは明確ではない。本研究では腸上皮が食品成分情報を感知してカルシウム吸収を調節する“自律性の吸収”の仕組みを明らかにする。平成29年度は、マウスを用いて① 食事摂取後の腸内容物情報・消化管内ミネラルイオン変化を解析し、② 腸上皮におけるセンサー分子の絞り込みを行った。① カルシウム吸収を自律性に制御するリンの摂取量を変化させ、カルシウムをはじめとしたイオン化ミネラル量・ATP量を、腸管の部位毎に腸内要物を回収し測定した。リンはカルシウム吸収を減少するが、リン摂取量の変化は胃内、および十二指腸内のイオン化カルシウム量を変化させないことを確認した。したがって、不溶性塩(リン酸カルシウム)の析出によるカルシウム吸収阻害ではなく、腸管腔内リン量を感知した自律性のカルシウム吸収制御であることが示唆された。② 食事リンに応答するセンサー候補として、ATP代謝因子の発現量・組織内局在量の変化を評価した。リン摂取量が変化すると腸内ATP量は速やかに変動する。そこで、ATP代謝に関係する分子に注目し、ATPの腸上皮からの放出と管腔内における分解を担う分子が絞り込まれた。また、これらの分子は、カルシウムの能動輸送を促進するビタミンDの作用を失ったマウス(小腸VDRKO)でも機能していることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
マウス1個体毎に消化管部位別の管腔内イオン化ミネラルを測定することができた。これにより、難溶性・難吸収性成分・易吸収性成分の割合を明確化することが可能となり、自律性の吸収制御機能の評価において最も重要なステップである。また、自立性にカルシウム吸収を制御するリンに速やかに応答し、安定して腸上皮に局在する因子が特定された。これらは細胞外リン感知機構において、生体内の広範な組織で普遍的に機能している可能性が示唆される。
腸の「どこで」局所的な吸収調節が行なわれるかを視覚的にとらえ、その仕組みは「どのように」制御されるかを明らかにする。① GCaMP3- GFPマウスと、腸特異的VDR KOマウス (villin Cre-VDRfl/fl 腸上皮特異的にCreを発現、腸上皮ビタミンD作用を欠失)を交配し、自律性カルシウム吸収を蛍光可視化するモニターマウス(GCaMP3-GFP-villin Cre-VDRfl/fl)を作出する。② 昨年度の実験によりATP代謝因子の発現変化が強く観察された部位を中心に、モニターマウス腸のイメージング(蛍光観察)を行う。リン量に応じてカルシウム吸収が変化する部位を特定する。カルシウムが腸上皮細胞内を通過して能動的に吸収される機構は、ビタミンD作用に強く促進される。しかし、この吸収はあくまでもカルシウム要求に応じた「全身的な代謝制御」であり、本申請研究では除外する必要がある。腸上皮ビタミンD作用を欠失したモニターマウスのカルシウム蛍光は「自律性の吸収」を反映し、本申請研究で解明すべき吸収調節機構に基づいている。
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