昨年度までの研究成果により、能動カルシウム吸収を強力に促進するビタミンD依存的なTRPV6カルシウムチャネル経路だけでなく、腸内ATP量の変化に応じたカルシウム輸送系の存在が確認された。そこで今年度は、ATP応答性のカルシウム吸収調節が機能する腸の部位を特定し、さらに、このカルシウム輸送系が腸管腔内の成分変化にどのように影響されるかを評価した。まず、マウス個体を用いた実験では、試験飼料摂取後の腸管腔内の電解質濃度の変化と腸上皮におけるカルシウム輸送関連分子の局在の変化を調べた。さらに、カルシウム輸送を大きく変化した電解質バランスを培養腸上皮輸送評価系で再現し、ATP応答性のカルシウム吸収が引き起こされる際の細胞内シグナルを調べた。また、カルシウム吸収を蛍光可視化するモニターマウスを作出し、自立性カルシウム吸収の可視化を試みた。 マウス個体を用いた実験により、腸管腔内リン濃度の低下が試験飼料摂取後のATP応答性カルシウム吸収を促進することが確認された。この変化は、腸上皮におけるATP分解系(ENPP1)ならびにATP放出系(CX43)の発現変化を伴い、これらのバランスにより腸管腔内のATP量が変化することに起因する。摂取リン量の低下だけでなく、空腹時の腸組織においても同様にATP分解系や放出系に関与する分子の変化が観察された。さらにこの時の腸管腔内の電解質分析の結果から、カルシウムイオン濃度に対して、リン濃度の低下率が大きいことを確認した。 ATP応答性カルシウム輸送が機能する腸管腔内の電解質バランスとして、カルシウムの増加を再現し、カルシウム輸送分子とATP分解系や放出系の発現量変化を調べたところ、カルシウム濃度の上昇に応じてATP放出量が減少することを見出した。食事由来・腸管腔内リン濃度だけでなく、カルシウム濃度も腸管腔内ATP量の調節に関与すること示唆される。
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