SIRT1による栄養素嗜好性の制御機序を解明するために、動物への各種の栄養素投与実験や、各種の遺伝子組換え動物の作製と解析などを行った。脳特異的なSIRT1の増加・欠損マウスの解析より、「単純糖質に対する食欲」および、「中鎖脂肪酸に対する食欲」といった栄養素特異的な食欲(嗜好性)が存在することが明らかになった。 また、FGF21は、たん白質欠乏状態でも血中濃度が上昇することが報告されているため、FGF21はどのような条件下でタンパク質摂取の調節に関与するかについて調べるために、その前提となる基礎健人を開始した。 (1)単純糖質に対する嗜好性の制御メカニズムについて:オキシトシン神経特異的なFGF21受容体欠損マウスでは、単純糖質嗜好性が低下することを確認した。また、これらのマウスでは、甘味はあるが肝臓からのFGF21分泌を刺激しない人工甘味料に対する嗜好性は変化していなかった。また、脳内2か所にあるオキシトシン神経に対して、定位脳手術とウイルスベクターを用いた実験から、視床下部室傍核のオキシトシン神経が、単純糖質嗜好性の制御に重要であることを明らかにした。そして、逆行性ウイルスベクターを用いて、室傍核のオキシトシン神経の投射先特異的な遺伝学的な操作を行う実験系の確立に着手した。 (2)脂質嗜好性の制御メカニズムについて:「中鎖脂肪酸に対する」食欲の存在を示唆するデータが得られたため、中鎖脂肪酸の代謝に必要な中鎖脂肪酸-CoAデヒドロゲナーゼ(MCAD)をコードするAcadm遺伝子のfloxマウスの作製に着手した。 (3)蛋白質嗜好性の制御メカニズムについて:蛋白質の欠乏やたん白質の供給により、どのように血中FGF21濃度が変動するかなどの基礎検討を、野生型マウスを用いて行った。
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