研究課題/領域番号 |
17H01983
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
長 幸平 東海大学, 情報理工学部, 教授 (90256199)
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研究分担者 |
内田 理 東海大学, 情報理工学部, 教授 (50329306)
中嶋 卓雄 東海大学, 情報教育センター, 教授 (90237256)
寺田 一美 東海大学, 工学部, 助教 (30547998)
伊藤 秀一 東海大学, 農学部, 教授 (60425577)
若林 裕之 日本大学, 工学部, 教授 (30434070)
佐藤 俊明 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 特任准教授 (50567146)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リモートセンシング / 地球環境 |
研究実績の概要 |
<観測機器等の整備・調整>既存の可搬式の分光放射計を用いて、宮城県および熊本県の被災地周辺の植生、土壌、水域等の各観測対象の分光反射率測定に用いた。GPS付きのカメラ、タブレット端末を整備すると共に、既存のドローンの改良および安価なドローンの購入を行い、現地調査に活用した。 <協力校との調整と観測地点の決定>宮城県については、前年度までの科研費基盤研究(B)(以下、先行研究)で協力頂いた仙台工業高校等に継続して協力頂くこととし、観測地点も継続することとした。また熊本県については、東海大学付属星翔高校との高大連携で調査を実施することなった。観測地点については、3回ほど現地調査を実施し、定点観測を行う地点の選定を進めた。 <現地調査>宮城県については、2017年8月と2018年3月に現地調査を実施した。先行研究における前年度の調査時点から、かなり復興が進み、南三陸町や気仙沼市では区画整理等で、観測地点の変更を余儀なくされた。熊本県では、被害の大きかった南阿蘇村、西原村、益城町周辺、水資源については河川・地下水中の硝酸汚染状況を把握するため熊本白川流域、支川等にて調査を実施した。 <観測データの共有・解析>現地調査で撮影した写真は、サーバーにアップし、共同研究者・学生間で共有できるようにした。写真はGPS情報を用いて分類し、地点別に階層化した。衛星データについても、随時、最新のデータを入手し、現地調査のリファレンスとして利用した。 <教材の作成・公開・セミナー開催等> 収集した現地写真、衛星画像、観測データをもとに、地球環境教材を試作し、大学生、高校生へのセミナーで紹介した。写真等の公開については、被災者の事情・心情に配慮し、徐々に進めている。また、申請代表者らは国際学会の招待講演を含む内外の学会でも本研究の取り組みについて積極的に情報発信を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
宮城県の調査は、既に、先行研究で5年間の調査実績があるため、研究者間の調査地点の分担が円滑に進み、年2回の現地調査は順調に完了した。20171年度も含めた6年間の記録で、復興が顕著な地域、やや停滞している地域等の地域差が見えてきた。気仙沼の市街地の観測地点のように、盛り土した上に高層住宅が整備され、その地点に限れば復興が「完了」したところも出てきた。また、南三陸町では、区画整理で道路のコースが変わり、立ち入れなくなった地点もある。こうした状況を考慮し、観測地点の見直しを進めている。 一方、熊本県は、申請代表者らが所属する東海大学の阿蘇校舎、熊本校舎、宇宙情報センター周辺を中心に調査を進め、精力的に観測地点の選定を進めた。調査は、湘南校舎所属の教員と阿蘇校舎・熊本校舎所属の教員が道路、橋、農地、牧草地、水系等を分担して進めており、着実に基礎データを集まっている。定点観測写真の撮影方法も、ほぼ確立され、時系列の比較がしやすいデータセットが整備されつつある。 水田については、衛星データの時系列解析で、水田の復旧状況をある程度把握できることを確認した。宮城県の水田については、同じ津波の被害を受けた地域でも、内陸の水田は翌年から営農を再開しているのに対して、沿岸域の水田は、復旧に4~5年かかっているケースが見られた。 水環境については、中高生への環境教育および農業復興支援の一助として乳酸菌を用いた水質浄化実験を開始した。また、高大連携で、熊本校舎の学生と星翔高校の生徒が地球環境定点観測隊を組織し、今後、協力して調査を進めてくことになった。 調査用タブレット端末用のツール開発では、GPSの精度向上,起動時位置取得時間の短縮,ま た画面タップ認識精度の向上が確認でき、,作業効率向上につながることを確認した。ドローンによる上空からの観測も順調で、阿蘇キャンパスでは5回ほど観測を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
宮城県の調査については、すでに6年分の調査データが蓄積されおり、6年が経過してみてようやく見えてきた各地の復興、環境再生の道筋がある。こうした環境再生の道筋を、時系列の定点観測写真を中心に分かりやすく提示する形で順次公開していく方針である。熊本県の調査については、調査開始前の震災前後の写真が不足しているため、関係者からの提供を求めていくことにしている。 これまでの調査から震災後の復興、環境再生の過程は、地域で大きく異なり、また多様であることが明らかになった。今後の定点観測では、あまり狭い画角で対象を捉えず、広い範囲で観測を続ける方針である。水環境の調査では、白川流域における河川水水質調査、地下水水質調査に加え乳酸菌を用いた水質浄化実験を引き続き進めていく。 衛星データの解析では、時系列の再生状況の把握には正規化植生指標(NDVI)が有効であることも確認できている。ただ、これまでNDVI解析に使用していた衛星データは、時系列の変化を追うために空間分解能は低いが観測頻度の高い衛星データを使用していた。しかし、これでは規模の小さい水田の変化把握には不十分なので、今後は、ある程度、空間分解能の高い衛星データも利用していく方針である。 調査用のタブレット端末については、利用した地図ライブラリの表示機能が不十分なため、改良する予定である、また,ヘッドマウントディスプレイを利用したアプリも開発し、今後、調査時にその有効性を検証していく。ドローンの観測については、撮影回数を増やし、急速に進む復興状況を的確に記録していく必要がある。また、地上写真や衛星画像との効果的な対比に適した撮影方法を選択していく。 調査結果については、今後、学会等を発表するとともに、オープンキャンパス等の機会を生かし、熊本、神奈川県の中高生を対象とした体験実験・講義等へつなげていく計画である。
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