研究課題/領域番号 |
17H01984
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
石川 幹人 明治大学, 情報コミュニケーション学部, 専任教授 (20298045)
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研究分担者 |
佐藤 広英 信州大学, 学術研究院人文科学系, 准教授 (00598691)
菊池 聡 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (30262679)
長田 恭一 明治大学, 農学部, 専任教授 (30271795)
眞嶋 良全 北星学園大学, 社会福祉学部, 准教授 (50344536)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 科学コミュニケーション / 疑似科学信奉 / 誤謬論 / 科学教育 / 批判的思考 / 科学リテラシー |
研究実績の概要 |
「疑似科学に関する議論を媒介にした科学リテラシー教育のプラットフォーム構築の研究」では、これまでの科学研究費の成果を公開している疑似科学評定サイトに新たにコミュニケータ機能を開発導入し、そのサイトコミュニケータの議論や、来訪者の閲覧履歴・アンケート情報を収集・蓄積する機能を整備して、科学リテラシー教育のオンラインプラットフォームを構築する。それをもとに疑似科学信奉の心理的背景や信念変更の社会情報的状況について分析し、科学コミュニケーションや科学リテラシー教育の増進方法を編み出すとともに、その成果を疑似科学サイトに反映させ、さらにオフラインの教育効果と比較評価を行う計画である。 当該年度では、上記オンラインプラットフォーム上でスマホでの閲覧も可能な疑似科学評定サイトGijika.comを試験公開したうえで知見を蓄積し、さらに不具合点や改善点を機能アップし本格公開した(2019/2/27にプレスリリース)。加えて既存のサイトについても寄せられるコメントに対応し、従来の評定の信頼性をあげることと、新規項目の評定もさらに追加し、閲覧者のさらなる増加を達成した。 科学コミュニケーション上の研究としては、サイトに寄せられるコメントの分析、社会情報面および教育心理面の準備段階の研究を重ねている。とくに、コメント分析では誤謬論の観点から顕著な傾向が検出され、特定のタイプの誤謬が多いことをより客観的に検出し、前年度に続いて科学教育学会で発表を行った。高校生を対象とするウェブ調査では、SNSの利用状況と疑似科学への態度の関連性についてデータが重ねて収集できており、詳細分析中である。また、批判的思考の文化比較についても、データが集まっており、分析が進行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度も、オンラインプラットフォームのシステム開発におよそ半分の経費を充当した。予想外の修正点が生じたため開発がやや遅れたが、年度内にスマホでの閲覧も可能な疑似科学評定サイトが本格公開できた。議論スレッドの構築、アンケート情報収集などの基本機能に加え、ユーザインターフェース部分が良好に稼働して運営がなされている。科学コミュニケーションのプラットフォームとして、完成形態に近づいたと言える。 加えて既存のサイトについても、3項目の評定について新規追加を行った。昨年までの3年間では、閲覧者のべ73万人、約216万ページヴュー、約1200件のコメントを集めていたが、その後の1年間で新旧サイト合わせて、閲覧者のべ147万人、約370万ページヴュー、約1600件のコメントに実績が上昇した。 また、疑似科学に関する一般市民の認識を広く調べるとともに、SNS上のコミュニケーションや情報接触が疑似科学信奉に及ぼす影響について、一般のTwitterユーザーを対象とするウェブ調査により検討を行った。その結果、Twitterの利用頻度が多いほど疑似科学を信奉しないこと、Twitterの利用動機によって疑似科学信奉との関連が異なり、直観性の低い人ではTwitterで趣味娯楽情報に触れるほど疑似科学を信奉し,公共情報に触れるほど疑似科学を信奉しないことが示された。疑似科学をはじめとする実証的根拠を欠いた信念の信奉の重要な規定因の一つである,内省的思考の機能に関する文化差の検討について本年は,疑似科学信奉と内省的思考の関連について過年度に取得したデータを再検討するとともに,疑似科学と同様に内省的思考と負の相関を示す「それらしく見える戯言 (pseudo-profound bullshit)」の受容と内省的思考の関連性について、文化比較のためのデータを取得した。
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今後の研究の推進方策 |
疑似科学評定サイトの運用に伴うかたちで、科学コミュニケーション研究を当該プラットフォーム上で実施していく。運用に伴って問題点の洗い出しがなされて、若干の機能修正や拡張を見込んでいる。コミュニケータを養成し、参加促進させる体制も整備して、サイトのコミュニケーション環境の充実を図る。 これらの知見を参考として、Eラーニング教材の学習が疑似科学に対する態度に及ぼす影響の検討や、サイト参加者の匿名性の有無や権威者の有無が他者とのコミュニケーション行動に及ぼす影響の検討を、引き続き行う。参加者をコミュニケータとして認証・登録することが可能になったので、コミュニケーション行動に対して与える影響を中心に分析していく。疑似科学に関する情報について、専門家と一般市民で大きな理解のギャップがあるので、科学コミュニケーションの不全に対して解決を探索するための教育心理面研究を重ねていく。プラットフォーム上のテキストを分析し、これまで収集してきた調査データと比較し、人間の推論過程での認知バイアスと、議論の発展や合意をめぐる科学コミュニケーションの特徴について考察を重ねる。加えて、疑似科学的命題を扱う推論プロセスを良好化する現実的な処方箋の可能性を探っていく。 また、サイトの注目度の向上から、個々の評定分析についての社会的反響も大きくなっており、「ダンスセラピー」と「ワクチン有害説」については関連学会からそれぞれ依頼が来ており、論文発表を予定している。本年度は最終年度であるので、上記の学術的分析の結果得られた知見を、これまで以上に学会発表や論文投稿、学術書の出版という形で公表していく。そして、プラットフォーム上で研究を公開することによっても成果を世に問うていく。その閲覧者の反応をその後の研究に反映していくことで、市民の要求に応じた科学教育研究という循環体制に向けて研究を展開する。
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備考 |
大学ジャーナル「疑似科学に関するオンラインサイト、明治大学などが開発」https://univ-journal.jp/24998/ ほか(プレスリリースによる成果)
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