研究課題/領域番号 |
17H02017
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中村 俊夫 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 招へい教員 (10135387)
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研究分担者 |
齋藤 努 国立歴史民俗博物館, 情報資料研究系, 教授 (50205663)
山田 哲也 公益財団法人元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (80261212)
南 雅代 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (90324392)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 放射性炭素 / 放射性炭素年代測定 / 古代鉄資料 / 鉄サビ部の年代測定 / 石英管燃焼法 / 鉄中炭素の回収率 / 加速器質量分析 / 14C年代の暦年較正 |
研究実績の概要 |
これまで申請者らは,操作に手間がかかるが完全に鉄試料を溶融する温度まで加熱して含有炭素を抽出できる高周波加熱炉(RF加熱炉)から構成される調製装置を所持して使用してきた.本研究では,さらに別途に,簡便な炭素抽出法の開発を目指している.これまでの方法と,結果を比較しつつ,新しい簡便法を実用上問題ない段階まで完成させる.具体的には石英管内に封入する鉄試料の重量と助燃剤の重量の相対比,また,鉄試料の加熱温度や加熱時間の設定,さらに一連の試料調製において発生する可能性のある外来炭素による汚染の有無や,汚染がある場合にその除去方法の検討である.4年間の研究計画のうち,初年度と本年度の2カ年で,これらの検討を実施し,特に,石英管内に封入する鉄試料の重量と助燃剤の重量の比や鉄試料の形状などを検討し,安定な収率が得られる条件を確認した.この方法を用いて,1g程度の金属鉄試料および錆びた鉄試料から,それらの資料に含まれる炭素をほぼ85%以上の収率で,さらに通常の14C年代測定に用いる試料と同程度の14Cブランクで,回収することができる. また,日本刀の14C年代測定についての要望が多々寄せられており,日本刀の美術品としての価値を失わないようにして,1g程度の鉄試料を,日本刀の一部として分取する方法を,民間の日本刀研ぎ師との共同で開発研究を行っており,本年度の研究費を用いて,鉄試料の分取に用いる可搬型の道具類をオランダへ持参して,オランダの博物館に保管してある日本刀から,鉄試料を採取することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で,第一に目指している,鉄試料の簡便な炭素抽出法の開発を推進した.昨年度に引き続き本年度も,鉄試料中に含まれている炭素を完全に燃焼して二酸化炭素として回収するために,石英管内に封入する鉄試料の重量と助燃剤の重量の相対比,また,鉄試料の加熱温度や加熱時間の設定,鉄試料の形状・状態,さらに回収された二酸化炭素についての現代炭素による汚染の有無などについて,吟味した.この結果,現有の器具を用いた操作方法で発生する14Cブランクは,他の14C年代測定試料の示す14Cブランクと同程度であることが確認できた.また,塊状の鉄試料の炭素回収率,鉄試料の重量と助燃剤の重量の相対比について,最適な設定を行った.さらに,さまざまな鉄製文化財・考古遺物についての14C年代測定の要望が多々寄せられており,それぞれの試料の美術品としての価値を失わないようにして,1g程度の鉄試料を,それぞれから分取する方法を検討している.日本刀についてもその美術品としての価値を失わないようにして,1g程度の金属鉄試料を,日本刀の一部として分取する方法を開発研究した.本年度は,それに用いる道具類をオランダへ持参して,オランダの博物館に保管してある日本刀から,鉄試料を採取することができた.その他,名古屋大学理学部装置開発室からの協力も得ており,さまざまな形状の鉄試料に対応できる体制が構築できている.このように,本研究はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,鉄試料の14C年代測定のための試料調製法において,これまで有効に適用されてきた高周波加熱炉による鉄含有炭素の抽出法に換えて,より簡便で,さらに錆びた鉄にも適用できる石英管封管燃焼による炭素抽出法について,これまでの研究成果を踏まえ,それらの方法の完成を目指している. 本年度の研究により,石英管封管燃焼による炭素抽出の条件については,ほぼ確立した.すなわち,(1)助燃剤の酸化銅CuOを,金属鉄試料の4倍重量用いる.(2)鉄試料と酸化銅を入れて封じ切った石英管は1000℃で15時間加熱する.このような条件設定で,近代溶鉱炉で作られた14Cを含まない金属鉄試料の14C測定を行い,その鉄が示す14Cバックグラウンドレベルの値は,通常用いている14Cブランク試料(シュウ酸試薬)の示す値とほぼ同程度である事を確認した.そもそも鉄中に残留する炭素の起源は,たたら製鉄などの際に,製鉄の原料である砂鉄などの酸化鉄を還元するために用いる木炭の一部である.そこで,木炭の作製に用いられる樹木の年輪数分の年代幅の変動幅(不確実性)を持つことになる.たたら製鉄の具体的内容から,この変動幅は20-30年程度と推定される.この年代の変動幅は,ほぼ14C年代測定の誤差と等しいことから,作製年代が明白な鉄試料の測定を行うことで,鉄試料のAMS法による14C年代測定の正確度の検定をすることができる.そこで,来年度は,日本刀などの作製年代が既知の金属鉄試料の14C年代測定を中心に,分析を進める.本年度にはオランダの博物館を調査して,同館に保管されている日本刀から金属鉄を採取できている.また,錆びた鉄試料については,インドの巨石文化期の鉄金属器の分割試料につき橿原考古学研究所を介して手に入れており,それを中心に,試料調製方法の検討を含めて,錆びた鉄資料の精度の高い14C年代測定の研究を進める予定である.
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