2019年度は、まず2018年度に開発した機械学習に基づく指領域抽出手法の改良として、従来利用していたネットワーク構造(U-Net)だけでなく、複数の自己符号器型ネットワーク構造について検討を行い、より高い抽出精度が得られる指領域抽出手法を開発した。また、この指領域抽出手法を指静脈認証へ適用し、指静脈パターン照合精度の評価実験を行った。その結果、機械学習に基づく指領域抽出手法は、一般的な画像処理を組み合わせた指領域抽出手法に比べて指静脈認証の照合精度を向上させることを確認した。 次に、これまで検討した手法を実装した実時間指静脈認証システムを構築し、統合的な指静脈認証システムとしての評価実験を行った。この実験では、中心波長850nmの近赤外LED光源、カメラと光源の前に設置された2枚の偏光フィルター、近赤外光対応のCMOSカメラから構成される透過型指静脈撮影装置を利用し、指静脈パターンの照合手法としては、SIFT (Scale-Invariant Feature Transform) 特徴量に基づく手法を利用した。また、指静脈パターン照合を行う計算機として、GPU(Graphics Processing Unit)を搭載したPCを利用し、処理の高速化を図った。この実験結果より、暗室下及び指をゆっくり動かした条件下では、高い照合精度で遅延の少ない静脈認証が実現できることを確認した。一方、実用化へ向けては、暗室外での様々な照明環境下でも高い精度で照合が可能なシステムや、指を粗放にかざした場合でも安定した照合が行える仕組みが必要であることを明らかにした。
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