研究課題/領域番号 |
17H02043
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
蓮池 隆 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (50557949)
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研究分担者 |
松本 慎平 広島工業大学, 情報学部, 准教授 (30455183)
加島 智子 近畿大学, 工学部, 講師 (30581219)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 農産物サプライチェーン / 情報共有システム / 数理モデリング / 全体最適化 / 地産地消 |
研究実績の概要 |
2018年度においては,農産物サプライチェーンでの意思決定を支援する数理モデル・情報システムの改善のみならず,実際の流通現場での実証実験を実施した. 具体的には,数理モデルとして,昨年度より検討を始めた,市場流通と直売流通の中間的役割を担う産直流通に関する数理モデルを精緻化し,農産物の集荷場の立地最適化や,輸送コストの分担による利益や農家-小売店の最適マッチングの感度分析等を行い,産直流通モデルの有効性を検証した.結果として,農家の利益およびマッチングが起こらない農家数を減少させつつ,小売店の利益を向上できることが確認された.また,農家と小売店との契約に天候デリバティブのような金融商品を導入することで,金融工学で検証されているリスクの観点から,本研究で構築されている農産物サプライチェーンのリスク評価を行った. 一方,農家と消費者を結ぶ情報システムの開発として,農産物に貼ったバーコードをタブレット端末で読み取ると生産者や農産物の情報を見ることが可能な「ベジスキャン」を開発した.このシステムでは,生産者や農産物の情報,圃場を紹介し,地方都市においては生産者、消費者は高齢者が多いことから,使いやすさの点にも考慮しつつ,情報という付加価値を付けることで生産者の所得向上や地産地消を促進させることを目的としている.このシステムのプロトタイプを用いて,広島にあるJA広島中央「となりの農家」高屋店にて実証実験を行い,現在収集されたデータ・情報の分析を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画通り,この2年間で農家の利益を確保しつつ,小売店の利益も向上させ,消費者の満足度も保つ農産物サプライチェーンの有効な制度設計が,数理モデルを通して明らかになってきた.そこでは,農家と小売店・消費者の間での適切な情報共有が必要となり,情報システムの開発が重要となる.2018年度において「ベジスキャン」を開発し,その実証実験まで実行できた点においても,農産物流通に関わる情報システムに開発は,順調に進展している. また一方で,今後有効とされる産直流通モデルにおいても,物流がボトルネックとなっており,その費用分担や配送最適化が必要不可欠であることが明らかになってきた.これらを考慮した数理モデリングも実行され,最適化問題として最適解を求解するだけでなく,感度分析等を行うことで,状況に応じたモデル適用の道筋ができた点において,数理最適化の観点も順調に進展している. 現在,「ベジスキャン」の利用による効果検証を行うだけでなく,この情報システムが普及した際に必要となる農産物サプライチェーンモデルとの融合を次年度以降実施していくことで,理論と実践両面での高水準の成果が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況でも記載のように,2018年度までに,数理モデリング・情報システム開発両面において,当初の想定通り研究成果があげられている.今後,数理モデリングの観点ではゲーム理論,特に協力ゲームの中でのナッシュ交渉解等を利用した物流コスト負担モデルへの拡張や,配送の最適化も考慮した農家-小売店の最適マッチング等を考慮する必要がある. 一方,情報システムの開発においても,「ベジスキャン」の実証実験で得られたデータ・情報を分析することで,年齢問わず農家や消費者が使いやすい,農産物の付加価値を高めやすい情報共有システムへと発展させる必要がある.さらに,数理モデルとの融合で,経営面での最適化も実践していくことが望まれる. 以上の観点から,2019年度は数理モデリングと情報システムとの融合を中心に研究を行い,実証実験を重ねることで,実社会への適用可能性を高めていく.
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