研究課題/領域番号 |
17H02051
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
中村 祐二 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50303657)
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研究分担者 |
松岡 常吉 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90633040)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 火災 / 燃焼 / 熱可塑性高分子 / 溶融 |
研究実績の概要 |
溶融相の形状変化を捉えるために,バックライトCT法の原理を利用した計測システムを燃焼場用に改良を加えた.昨年度では可視化用のカメラが1台であったため,全周画像を得るのに数秒を要していたため,急激な形状変化には対応できていなかった.そこでカメラを複数台用意することで急激な変形に対応できるようなシステムアップグレードを行った.計測系が複数台になることでシステム同期などが必要になるため,専用の制御プログラムを作成し,それに対応することができた. 溶融時のガス化の様相を精密に計測するため,被燃焼物の時系列重量現象測定を行うための装置を開発し,時系列で高精度な重量減少速度を計測できるシステムを設計・構築を試みた.試験例として極薄のプラスチック材料の燃焼モード(一般には燃え拡がりモードとなる)を重量減少から得られる臨界質量流束(ガス化面積はIRカメラにて取得)を導入し,厚みが薄くなるにつれてリグレッションモードから燃え拡がりモードに遷移する状態を調べた.理論解析との比較および昨年度の温度計測結果と照合することで,重量減少を用いることで燃焼モードの特定が可能であることを示すことに成功した. 溶融して燃焼するポリマーのB定数などを正しく計測する目的で,球状の溶融ポリマーの燃焼特性を得る試験装置の開発を行った.低圧場を用いることで疑似的な一次元燃焼を再現することが確認でき,液滴理論を導入してB定数を実験的に得ることができる方法論を提供した. 溶融解析モデルの開発は継続して実施しており,エンタルピーポロシティ法におけるAmushの与え方(任意)が解の安定性に大きく寄与するが,それが問題固有の有効範囲があることがわかった.現在,その理由を理論的に求めることを試みている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデル化に必要な詳細な実験データの取得(CTによる時系列での溶融形状変化の取得,限界時付近の温度場計測,溶融や突沸のない理想状態での燃焼特性の把握など)は予定通り順調に進んでいる.モデル化についてはこれまで検討していなかった各パラメータの影響を一つずつ丁寧に検証しているところであり,堅実に進めているところである.当初予定でもモデル化には時間を要することを想定していたため,この進行速度については想定の範囲であり,特段の遅れが出ているわけではない. 完全に予定通りとしていない理由の一つが,CTによる溶融部の観察実験である.もともとは2年目で温度分布計測まで進む予定だったものの,カメラを複数台にして対応できるアルゴリズムを構築するのに想定外の時間を要し,タスクが次年度に持ち越しとなったからである.しかしながら,この変更は当該事業全体における一部に過ぎず,目標達成に対して何か欠けるものが発生したわけではない. 蛇足ながらCTについては現在論文化を試みている最中であり,極細温度計測については最終年度に論文執筆予定である.B定数計測法については,本実績報告を執筆している期間に英文ジャーナルに採択となった.このように研究期間後半になって成果報告が順調に出ていることは,本事業が順調に進んでいる証でもある.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は,モデル化に向けた解析ツールの開発を中心とし,周辺の基礎出田取得のための実験手法の確立,その成果報告を経て,モデルの高度化について言及することに注力したい.具体的には夏頃までに溶融モデルならびにガス化モデルを分離して実施した上で,安定して解析するための数値パラメータの制御方法について明確にし,その成果を国際ジャーナルまたは国際燃焼シンポジウムに投稿する予定である(11月を予定). もともとポスドクを配置して対応する予定だったものが,当該研究員がキャリアアップのため本学を離れることになったが,現在はその後を数値計算を専門とする研究員が引継ぎ,元の計画通りに進むように配慮している.提案では最終的にISOに規定されているような標準試験を実施する予定としてたものの,モデル化に向けた精密なデータ計測と高精度なモデル化に必要な解析ツールの開発に注力し,もともとの目標である「高度モデル化」を実現できるよう善処したい. なお2019年度で最終となるため,この成果をどのような形で引き継ぐか,何かの事業に発展させるかなどの次期展開も含めた検討も引き続き行う.この展開については当該グループに限らず,国内外の幅広い研究者の協力を得ることを検討しており,現在,国際火災学会の下で動いている「火災数値シミュレーションの高度化プロジェクト」(中村はその国際組織委員のアジア代表の一人)に採用されるよう働きかける予定である.これにより日本の研究力を世界に知らしめるよい機会になると考えている.
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