研究課題/領域番号 |
17H02062
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
山本 真行 高知工科大学, システム工学群, 教授 (30368857)
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研究分担者 |
柿並 義宏 苫小牧工業高等専門学校, 創造工学科, 准教授 (00437758)
中島 健介 九州大学, 理学研究院, 助教 (10192668)
甲斐 芳郎 高知工科大学, システム工学群, 教授 (80529959)
齊藤 大晶 高知工科大学, システム工学群, 助教(PD) (00798382)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超低周波音 / 津波 / 防災 / シミュレーション / 波源探索 / 規模推定 / 面的観測 / 高知県 |
研究実績の概要 |
平成30年度には、前年度に面的観測を確立した高知県内15地点の超低周波音観測網と北海道でのパイロット観測1地点に加え、山本と柿並により、北海道、岩手、茨城、千葉、静岡、愛知、三重、大分の各道県に計14地点を拡充、計30地点の観測体制の構築に成功した。高知県内以外での設置密度は十分とは言えないが、広域を比較観測できる大きなメリットを得た。本科研費にてセンサーを新規に4台調達し配備できたが、関東および中部地方への配備には、地元企業の有志からセンサー調達費を補助頂き、運用機材の一部のみを本科研費ならびに別件の助成金等から拠出することで、当初想像以上に迅速に全国規模の観測体制へのステップアップとなり、大幅な進展を見た。 津波波源域での海水面隆起に伴う超低周波音励起メカニズムのシミュレーションについては、甲斐により紹介された津波シミュレーションの元データを中島が計算に取り込むことで、南海トラフ域3連動地震の政府想定のデータに基づいて各地で観測されうる超低周波音の波形推定がなされた。これにより観測地点において想定されうる波形情報を予め保存しておき、実際の地震発生時に比較検証しつつ警報レベルを上げるような防災技術の開発に目処を立てることができた。さらに大気中の伝搬メカニズムのシミュレーションを齊藤が進め、霧島新燃岳や桜島噴火による超低周波音の高知県内出の観測結果と詳細に比較を行うことで、伝搬路における高層大気風速の高度プロファイルが与える影響の定量的な考察までが可能となった。 高層大気中の音波伝搬については、平成30年6月30日の民間の観測ロケットMomo2打ち上げ時に、打ち揚げ花火を用いた音波伝搬実験を実施した。ロケット自体は不具合により失敗したが、地上観測点において花火を音源とする多地点定量観測に成功した。また、計2回の研究会を開催し情報交換を行い、国内学会等で成果を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、当初想定では高知県内に3スケールのアレイ観測を実施する計画であったが、関連する研究領域の助成金等が順調に得られたこと、関東および中部地方の企業からも防災目的の本研究への資金補助を得られたことから、センサー設置が飛躍的に進み、当初計画の倍以上の計30台が稼働中である。 広域での観測体制を得たことから、前線や台風の列島縦断などの顕著な気象変化の際に超低周波音観測に現れうる信号について、その時空間変化を仔細に追うことに成功した。これらの成果は、津波防災への阻害要因となりうる気象変化によるノイズの定量化という意味で非常に大きい成果である。これまでに得られた結果として、各地点で台風通過などの極端気象現象が起きる年間10日程度の一部の時間帯を除き、大津波発生時の直前に観測されると想定される大振幅かつ長周期の超低周波音が観測された事例は無いことが約1年間の多地点のデータ判読により判明した。 独自技術を用いて共同開発している超低周波音センサーの特性を活かし、センサー自体が持つ機能についての拡張や高性能化を並行して実施できた。特に観測ロケット搭載機の開発(別経費)に伴い習得された小型化技術を反映した新型センサーの試作にこぎつけ、津波以外の比較的日常的に起きる土砂災害等への防災にフォーカスした付随的研究も飛躍的に進みつつある。さらに、災害発生等の非常時に携帯電話回線等が被災しても、観測点からの最重要データのみを圧縮送信できる通信システムの開発も別予算で着実に進めており、これらの技術的成果を融合したシステム構築への道筋にも目処が付いた。 以上の事柄は融合され、本研究課題へとフィードバックさせることができ、令和元年度の研究成果へと活用できると見込まれることが理由である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、平成29年度、平成30年度ともに順調に推移しており、令和元年度も当初計画に沿いつつも当初計画以上に発展的に研究を進める。高知工科大学総合研究所インフラサウンド研究室を研究拠点として生かしつつ、引き続き5名体制で進める。研究分担者の中島が甲斐や齊藤と進めてきた津波による超低周波の生成メカニズムの考察やモデル構築、さらに音波伝搬シミュレーションを津波防災に実用するための高精度化が期待される。 本科研費研究課題に加え、令和元年度もセコム科学技術振興財団研究助成課題で継続採択(最終年度)されており、さらにNEXCO関連の研究助成を得ることにも成功したため、本年度は九州北部および高知県の山間部もフィールドに充てて、土砂災害への超低周波音遠隔観測の活用を意図したターゲットにも取り組みつつ、津波防災に軸足をおいた本研究を完成させていく。昨年度末までに全国約30地点での観測網が構築されており、高知県内や中部地方の観測データについてはネット上で準リアルタイム公開を実施済である。安定運用に向けた課題もあるが、装置ファームウェア等の更新もメーカーと共に進めている。緊急地震速報のスキームを当該観測のトリガとして取り込む改良もほぼ終えており、メンテナンス時に各地点で実装されていく予定である。 民間の観測ロケットMomo3は、令和元年5月4日に高度100 kmの宇宙空間に到達したが、搭載したマイクと地上臨時観測により成層圏~熱圏下部の領域での高層大気中音波伝搬に関わる実験的データの取得に成功した。潮位計との連携や雷鳴観測を生かした極端気象防災へ向けた共同研究も進めている。本年度は、多数のセンサー観測信号を複合的に活用して波源探索を準リアルタイムで進めるシステムの構築も推進するとともに、津波発生時の超低周波音の励起・伝搬メカニズムの科学的理解とその応用のため、検証と論文化を進めていく。
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備考 |
*1、*2はデータ公開ページ(高知県版および中部地方版) *3、*4は両面印刷のA4版リーフレット(展示会等で一般参加者に配布)
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