研究課題/領域番号 |
17H02067
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
本田 明治 新潟大学, 自然科学系, 教授 (20371742)
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研究分担者 |
山根 省三 同志社大学, 理工学部, 准教授 (10373466)
川瀬 宏明 気象庁気象研究所, 環境・応用気象研究部, 主任研究官 (20537287)
山崎 哲 国立研究開発法人海洋研究開発機構, アプリケーションラボ, 研究員 (20633887)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 寒冷渦 / 自然災害 / 気象学 / 竜巻 / 偏西風 |
研究実績の概要 |
本研究は、災害をもたらす竜巻など突風現象の発現時にしばしば確認される対流圏上空に寒気を伴う低気圧である「寒冷渦」について、「偏西風蛇行~寒冷渦~竜巻・突風現象」の階層構造の特性を明らかにすることを第1の目的とし、竜巻・突風現象の発現により災害をもたらす寒冷渦を数日以上のリードタイムで検出・追跡し、一般社会への普及により災害リスクの軽減を目指すものである。また、地球温暖化に伴う寒冷渦の変動特性を明らかにし、温暖化時における竜巻・突風現象の発現特性変化の評価も目指している。 いずれの目標・目的においても、寒冷渦の客観的指標を作成する必要があり昨年度より進めてきたが、本年度においてほぼ完成版とも言える寒冷渦指標構築の目処がたち、現在その実用化を目指して寒冷渦の発生や移動を自動で検出する寒冷渦追跡監視ツールを作成しているとともに、国際学術論文誌への投稿準備を進めている。具体的には、従来の寒冷渦指標が何らかの恣意的な基準や閾値によって寒冷渦の中心位置のみを求めるものであったのに対し、当研究における指標は、ある日時の気圧面高度分布の格子点値のみあれば求めることが可能で、更に時間・空間平均値など何らかの基準値からの偏差情報を必要とせず、寒冷渦の「中心位置」に加え「強度」及び「影響半径」も情報として得ることができる。更に寒冷渦形成前のトラフ(上空の気圧の谷)の抽出も可能であるため、災害をもたらすような寒冷渦検出・追跡のリードタイムの向上にも寄与するものである。今回利便性と信頼度の高い気圧面高度データによる指標化が成功したことで、当初予定していた渦位を用いた寒冷渦の新指標の作成は見送ることとした。またその他の予定していた計画においても、寒冷渦指標の良し悪しがいずれの結果にも影響を及ぼすことが危惧されたため、指標作成の進捗を見極めつつ、指標完成後の実施準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1では、「1-3寒冷渦構造の特性」では今回構築された寒冷渦指標に基づいて、竜巻をもたらすような寒冷渦構造変化の追跡が可能となった。「1-4寒冷渦の微細構造」では、寒冷渦指標を鉛直方向に展開することでその影響範囲と、さまざまなスケールの降水システム(線状降水帯、渦状擾乱、前線など)を、5km解像度の気象庁メソ客観解析データ、更にMSM予報値を用いて予報精度を検証し、竜巻・突風現象を発現させる寒冷渦予見評価を目指している。「1-5 再現実験・感度実験」は、寒冷渦指標の進捗を、数値実験自動化システムを用いて予備実験を進めたが、線形傾圧モデルを用いた感度実験は次年度に延期することとした 課題2では、寒冷渦指標の完成に伴い、新潟大学にて運用中の「顕著大気現象追跡監視システム」を改良し、寒冷渦の発生や移動を自動で検出する寒冷渦追跡監視ツールの作成を進めている。「2-1 渦位による寒冷渦過去事例検証」は寒冷渦指標の完成待ちであったが実施できる状況となったため、予報値と実況値の比較による寒冷渦予測のリードタイムを評価する。「2-2 渦位の変化を用いた寒冷渦の新しい指標」については、先述の通り気圧面高度データを用いた寒冷渦指標の目処がたったため今年度は見送ることとしたが、本研究の主要仮説である「竜巻・突風現象の発現に不可欠な降水システムに伴う非断熱過程による渦位再分配が下層渦度の増加を引き起こす」に基づいて、継続的な検討をしていく。 課題3では、「3-1 寒冷渦変動特性検証」「3-2 疑似温暖化実験」のいずれも寒冷渦指標の進捗を待つ状況にあったが、より次年度により高解像度データが提供される見込みとなったため、若干計画を見直して次年度において21世紀末における竜巻・突風現象の発現傾向(地域性、季節性、頻度)を推定、メソ気象モデルを用いて疑似温暖化実験を開始する。
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今後の研究の推進方策 |
課題1、課題2ともに、寒冷渦の検出と新指標の構築について、当初は寒冷渦指標として中心位置の検出のみを予定していたが、強度及び影響半径の指標化にも成功したので、竜巻・突風現象発現リスクを評価する上で今後の進捗が大いに期待される。更に新指標はある日時(瞬間値)の気圧面高度データのみあれば計算することが可能で、気候値などの統計値も必要とせず、時空間的なフィルタリングなどの事前処理も必要としないため、より客観性の高い指標とも言える。寒冷渦は極小値を探すアルゴリズムであるが、極大値を探すアルゴリズムに変更すればブロッキング高気圧の検出が可能となる。言い換えればあらゆる2次元データに適用可能な展開力の高いツールになり得る。 しかしながらまずはこの新指標と現実大気場の振る舞いをしっかりと反映しているか入念な検証が必要である。寒冷渦や先行するトラフの抽出そのものにおいては問題ないことは既に確認されているが、強度や影響範囲と対応する大気現象、特に竜巻・突風をもたらすような顕著大気現象との関係については今後十分精査していく必要がある。メソモデル用いた数値実験については、数値実験処理をある程度自動化するシステムが運用されたが、今後実験数が増加することも考慮してより自動化を進める必要がある。 課題3に関しては新指標の完成により今後の2年間で特に力を入れていく必要がある。ま本年度より水平解像度5kmの温暖化予測モデルの結果の利用が見込めており、21世紀末の竜巻・突風現象発現の地域性、季節性、頻度の分解能向上を図る。メソ気象モデルを用いた疑似温暖化実験によって、温暖化時における竜巻・突風現象発現リスクを評価し、感度実験の実施による比較検証を通じて、温暖化時における寒冷渦特性を評価していく必要がある。
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