研究課題/領域番号 |
17H02076
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
神崎 展 東北大学, 医工学研究科, 准教授 (10272262)
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研究分担者 |
萩原 嘉廣 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (90436139)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 筋細胞 / 特殊培養システム |
研究実績の概要 |
本研究課題では、骨格筋の基礎的および応用的研究を画期的に加速するために、「運動できる培養ヒト筋細胞系」を筋疾患患者らから採取したヒト筋衛星細胞を用いて構築することを目的としている。H29年度は脆弱なヒト筋細胞を電気パルス刺激(Electric Pulse Stimulation: EPS)特殊培養系へと適応し、その収縮運動能力の発達化を試みた。特に、マウス線維芽細胞をフィーダー細胞とした混在培養を施すことによりヒト筋管細胞の収縮能力を飛躍的に発達させることに成功した。さらに、この異種細胞の混在下においても、ヒト筋細胞の収縮運動活動に応答して惹起される高次生物反応(マイオカイン遺伝子の発現)を、種差を考慮したRT-PCR手法によりいくつかの筋機能マーカーを選択的に評価することを可能にした。一方、ヒト筋細胞単独培養では、ヒト筋管細胞の特性(培養ディッシュへの接着性が極めて高い)のため、伸縮性のない培養ディッシュ上や現状の培養条件下では収縮活動能の発達を獲得しにくいことがわかった。 将来的にこの「運動できる培養ヒト筋細胞系」を疾患筋細胞の機能評価システムへと応用展開することを目的として、患者の腱板断裂筋組織状況と、健常部および疾患部にそれぞれ存在する筋衛星細胞の特性差異について総合的な比較解析を行った。そして、腱板断裂疾患部では筋不動化に伴う筋線維化と脂肪細胞浸潤が見られ、その疾患領域には脂肪細胞や脂肪前駆細胞数比率の増加あること、一方、患側部位から採取した筋衛星細胞の基本的特性については、健常部のものと大きな差異は認められないことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのマウス筋細胞株で得られた研究成果および技術ノウハウを応用することにより、H29年度は脆弱なヒト筋細胞を電気パルス刺激(EPS)特殊培養系へと適応し、その収縮能の発達促進を試みた。ヒト筋細胞は筋分化誘導により互いに融合し筋管細胞を形成したが、通常のEPS付与では収縮能力の発達を促すことができなかった。そこでマウス線維芽細胞をフィーダー細胞とした混在培養を施すことによりヒト筋管細胞の収縮能力を飛躍的に発達させることに成功した。さらに、この異種細胞の混在下においても、ヒト筋細胞の収縮運動活動に応答して惹起される高次生物反応(マイオカイン遺伝子の発現)を、種差を考慮したRT-PCR手法によりいくつかの筋機能マーカーを選択的に評価することを可能にした。 他方、腱板断裂患者(15名)から採取した筋衛星細胞(患側部位および健常部位)の基本的な性状解析と網羅的発現遺伝子解析を遂行した。この際、それぞれの患側部筋組織を二光子顕微鏡で3次元深部観察を同時並行的に推進することにより、腱板断裂筋組織状況と、健常部および疾患部にそれぞれ存在する筋衛星細胞の特性差異について総合的な比較解析を行った。その結果、腱板断裂疾患部では筋不動化に伴う筋線維化と脂肪細胞浸潤が見られ、その疾患領域には脂肪細胞や脂肪前駆細胞数比率の増加が認められた。一方、患側部位から採取した筋衛星細胞の基本的特性については、健常部のものと大きな差異は認められず、筋衛星細胞のStemness(幹細胞性)は保持されていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
腱板断裂患者より採取した筋組織断片(健常部および疾患部)よりFACS(fluorescence-activated cell sorting)法を用いて採取した各々筋芽細胞(増殖刺激された筋衛星細胞)の性状解析を健常部と疾患部間でさらに深く比較検討するとともに、より高次な筋機能評価系となるEPSに対するそれらの収縮活動能獲得性についての比較解析を行う。そして、このEPS特殊培養系でのヒト筋細胞機能評価結果とH29年度に得られた知見(腱板断裂時の筋疾患状態)との相関性について調査する。 また、ヒト筋細胞単独の培養条件に比して、フィーダー細胞(マウス3T3L1線維芽細胞)との異種細胞混在培養系のさらなる改良を進める。この異種細胞の混在培養系においてヒト筋細胞の生物応答のみを選択的に評価可能なRT-PCR法およびELISA/Bio-plex法にて計測可能な分子種を増やすことを試みる。そして、ヒト筋細胞において収縮運動応答性に変動する遺伝子の同定を試み、それらを新たな筋機能評価マーカーとすることで健常/疾患筋細胞の比較解析系の構築を目指す。さらに、希少なヒト筋細胞の機能評価を少ないサンプル量であっても効率的に達成することを目標として、独自の小型インサートチェンバー培養系の構築にも着手する。8-well plateスケールに比して、飛躍的なミクロ化も可能となるためヒト筋細胞単独培養系の構築を行う。
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