研究実績の概要 |
本研究では,細胞核内外の力学的な「場」の変化が,DNAにどのように作用し,細胞の放射線耐性を生み出しているのか,そのメカニズムの解明を目指した.最終年度は,前年度までに確立した「(1)細胞への繰返伸展刺激負荷」と「(2)微細加工基板を用いた細胞核への直接的変形負荷」により,生きた細胞内のDNAの凝集を促進させながら紫外線耐性向上について詳しく検討した.(1)として,シリコーンゴムのシート上で線維芽細胞等を培養して,伸展率10%,周期数0.5Hzの繰返引張刺激を12時間負荷した.いずれの細胞でもアクチン細胞骨格が一様に再配列して発達し,細胞内の張力が静置培養群に比べて増加した.これらに紫外線を照射した後に,DNAの損傷部分をリン酸化ヒストンH2AX抗体を用いた免疫蛍光染色にて評価すると,繰返伸展刺激を負荷したいずれの細胞群でも有意にDNA損傷が抑制されることが分かった.一方で細胞張力を抑制した状態では,繰返伸展刺激を負荷してもDNA凝集やDNA切断損傷抑制が現れず,機械的刺激による紫外線由来DNA損傷の抑制効果には細胞張力が必須であることが明らかとなった. 以上の成果の一部をバイオメカニクス分野のトップジャーナルの1つであるBiomechanics and Modeling in Mechanobiology 19, 493-504, 2020 として論文発表した.(2)として,微細円柱(マイクロピラー)を配列させた培養基板を用いて細胞を培養すると,核の側面が顕著に圧縮され,DNA凝集部分で紫外線由来のDNA損傷を著しく抑制できることが分かった.複数の形状のマイクロピラー基板を用いて詳細に調べたところ,より大きく変形した細胞核ほど,紫外線を照射しても核内DNAの損傷が顕著に抑制されることなどが明らかとなった.以上の成果を論文としてまとめ,現在,投稿準備を進めている.
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