研究課題/領域番号 |
17H02082
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鳥澤 勇介 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (10767354)
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研究分担者 |
井上 匡美 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10379232)
金子 新 京都大学, iPS細胞研究所, 准教授 (40361331)
高山 浩一 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50274444)
三嶋 雄太 京都大学, iPS細胞研究所, 特定研究員 (80770263)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | がん評価モデル / Organ-on-a-chip / マイクロ流体デバイス / がん免疫細胞療法 / iPS細胞 / 3次元培養法 |
研究実績の概要 |
本研究は、3次元のがん組織をin vitroで培養可能な新規デバイスの開発を目的とし、特に免疫細胞(T細胞)の抗がん効果を評価可能なモデルの構築に取り組んでいる。生体内の腫瘍を模倣し、がんの微小環境を再現することで、灌流可能な血管網を有するがんモデルの開発を行い、併せて患者より摘出したがん組織を培養可能なデバイの開発を行う。これまでに、市販の細胞株を用いて3次元のがんモデルの構築を行っており、今年度は本モデルを用いたT細胞の評価に主に取り組んだ。市販の血管内皮細胞を用いたモデルにより評価を行った結果、T細胞を灌流して培養する際に、非自己の血管内皮細胞に対して反応性を持ち、障害する可能性があるために、免疫細胞を血管内に灌流して評価することが困難であった。そこで、この点を克服するために、免疫拒絶を抑えるように遺伝子改変を施したiPS細胞より誘導した血管内皮細胞を用いてモデルを構築することにより、血管内皮細胞に対する傷害性を回避し、T細胞をデバイス内に導入して評価を行うことが可能となった。開発したがんモデルを用いてT細胞の評価を行った結果、T細胞が血管網の中からがん細胞の凝集塊へと浸潤する様子が観察でき、がん細胞塊内へのT細胞の遊走が評価可能であった。従って、T細胞の評価を可能とする3Dがんモデルの開発に成功した。これと並行して、肺がん患者より摘出した腫瘍組織の培養に取り組んだ。腫瘍組織の検体を用いたデバイス内での培養では、血管網の導入に要する時間の長さと、線維芽細胞等の増殖のために、がん細胞の機能維持が困難となっていた。そこで、腫瘍組織よりがん細胞の凝集塊を回収する培養手法をいくつか検討し、がん細胞塊の作製条件の最適化を行った。今後は、摘出腫瘍組織から回収・作製したがん細胞塊を用いてモデルの構築を行い、摘出腫瘍に対する免疫細胞の効果が評価可能なモデルの開発を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、細胞株を用いたがんモデルの構築、免疫細胞の評価システムの構築、および摘出がん組織の培養システムの構築という、大きく3つの課題がある。本年度までに、上記2項目に関してはおおむね構築できている。摘出がん組織の培養システムに関しては、複数のサンプルの培養を試みており、課題の抽出を行った。 これまでに、がん細胞株を用いたモデルシステムが構築できており、血液細胞を灌流して培養が可能な3次元のがんモデルの開発に成功している。加えて、免疫拒絶を抑えるように遺伝子改変を施したiPS細胞より誘導した血管内皮細胞を用いることによって、T細胞の評価が可能となるシステムの開発に成功している。従って、免疫細胞の評価が可能となる3Dがんモデルの構築に成功しており、今後はT細胞の抗がん効果がどこまで評価可能であるのか有効性の検証および各種条件の最適化を行うことで、これまでに例のないT細胞の抗がん効果が評価可能な新規デバイスの開発が可能となりつつある。 摘出がん組織の培養システムの開発に関しては、サンプルの個体差に加えて、培養に要する時間が長く、前年度まではがん細胞塊の培養条件の検討に多くの時間を費やしている。これまでの取り組みにより、課題の抽出が出来ており、摘出がん組織の培養に関して一定の改善を見込めた。従って、デバイスの開発、およびがんモデルの構築は概ね完了しており、今後は開発したモデルを用いた有効性の検証の段階に来ており、当初の計画通りにおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までにプラットフォームとなる3Dがんモデルは構築できており、今後は、がん免疫細胞療法への応用に向けてT細胞の機能評価が可能なシステムの最適化を行い、摘出がん組織の培養が可能なデバイスの構築を行う。 まず、T細胞の評価システムの構築に向けて、本モデルがT細胞の抗がん効果をどの程度まで評価可能であるのかを明らかにする。具体的には、がん細胞に特異的に発現する抗原に対して特異的なキメラ抗原受容体を導入した細胞傷害性T細胞を用い、受容体の有無による抗がん効果の評価を行い、システムの最適化を行う。評価は蛍光イメージングによる経時的な評価と組織学的な評価手法を用い、血管網を介して腫瘍内へのT細胞の遊走・浸潤・増殖の評価、および腫瘍のサイズやがん細胞の生存能力の評価を行うことで、T細胞の評価システムを確立する。 並行して、開発したモデルを応用することで、摘出がん組織を培養可能なデバイスの開発に取り組む。これまでに、摘出した肺がん組織に血管網が導入可能であることは確認済みである。しかしながら、導入の効率と要する時間の長さのために、がん細胞の機能を維持する事が困難であった。そこで、予め血管網を形成したデバイス内に、がん細胞塊の導入を行い、短時間での血管網の導入とがん細胞活性の維持に取り組む。血管網が形成した流路内に細胞凝集塊が導入可能であることは既に確認している。また、繊維芽細胞等の増殖が問題となる点から、既に確立されているオルガノイド培養法を用いて、摘出腫瘍組織からがん細胞で構成された細胞塊(がんオルガノイド)の作製を行う。これにより、摘出がん組織より回収・作製したがんオルガノイドに血管網が導入でき、がん細胞の活性が維持可能なデバイスを構築する。がん組織が培養可能となれば、T細胞の導入や抗がん剤の導入を、血管網を介して行い、抗がん効果の評価が可能なモデルの構築を行う。
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