研究課題
現在、消化器がんのなかでも胆管がんは効果的な治療法がなく、「見捨てられたがん」と言われている。また症状を軽減するために行われるステント留置術も、1週間から1カ月で閉塞し、再手術が必要となり、患者の生活の質(QOL)が低下する。ステントの開存期間を延長することができれば、患者のQOLを向上することができる。ステント閉塞の原因となるスラッジ抑制に効果的と予想されるカバー膜内管の表面機能として、タンパク吸着/変性抑制能、細菌吸着抑制能等が考えられる。本研究では、血液適合性コーティング材として既に実績のあるポリ(2-メトキシエチルアクリレート))(PMEA)および、PMEA誘導体であり、ベアステント素材である金属への付着性に優れるポリ(3-メトキシプロピルアクリレート)(PMC3A)をコーティング材として用い。カバードステント内腔の付着物、付着細胞、付着組織の病理評価、細菌付着性タンパク質であるフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンの吸着性の確認を行った。その結果、ベアステント素材や一般的なカバー膜であるポリウレタンとシリコーン表面と比較し吸着タンパク質を優位に抑制することが明らかになった。また、安全性に問題ないこともわかった。さらに、3か月以上の開存性を確認した。厚生労働省との事前相談および開発前相談を経て、製品の3年相当加速劣化試験をパスした。商品名:カバードメルケアフロー(CMF)の登録商標を行った。スラッジ形成抑制の機構として、材料表面の界面水(中間水)が重要な働きを示すことを明らかにしており、製品性能発現のためのメカニズムが明らかになった。得られた研究開発成果は、胆管以外の消化器や循環器、抹消分野への展開が期待できる。
1: 当初の計画以上に進展している
従来のステントに用いられる基材やカバー膜素材に比べ、当研究で行ったコーティング表面は、スラッジ形成のもとになるタンパク質吸着や細菌付着性を抑制することを下記らかにした。長期の生体成分接触試験後の各表面の電子顕微鏡観察結果からも、従来表面は、吸着タンパク質によるコンディショニングフィルムやバイオフィルムが形成されたのに対し、本新規コーティング表面は、コンディショニングフィルムの形成がほとんど認められなかった。このような結果は、業界では初めての成果として注目を集めている。この良好な結果が得られた機構として、高分子表面に形成された特別な水和状態である中間水の量が強く影響していることが示唆された。各種タンパク質の吸着、変性、凝集を抑制し、これにより早期の細菌付着を抑制し、コンディショニングフィルムやバイオフィルム形成を速度を遅くし、スラッジ形成が起きにくくなることが考えられる。また、厚生労働省・PMDAの事前相談制度および開発前相談を共同研究企業と協力しながら実施し、アドバイスを頂きながらデータを取得し、治験なしでの申請が認められた。これにより、開発期間目標を前倒ししての達成ができた。研究成果の一部は、市村学術賞功績賞2019受賞、米国バイオマテリアル学会などでの招待講演、Science Advancesなどの超一流雑誌への掲載に至っている。
・胆管ステントは、早期の製品販売(試験販売を経て全国販売)を目指して、品質の安定した製品ロットの製造を行う。また、胆管で成功したコンセプトを食道、大腸、小腸などの他の消化器、循環器、泌尿器、抹消へ展開予定である。・プレスリリースのために、動物実験結果おび機序発現に関する研究を共同研究先の医学部と企業と協力しながらさらに進め、原著論文を出版する。これらの論文を営業支援資料として活用する。国内から海外展開を図る。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (5件) 図書 (2件) 備考 (1件)
Science Advances
巻: 4 ページ: eaau2426
International Journal of Molecular Sciences
巻: 19 ページ: 17
http://www.soft-material.jp/