研究課題/領域番号 |
17H02089
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
清水 達也 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (40318100)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 還流培養 / ヒトiPS細胞 / 腎オルガノイド |
研究実績の概要 |
胎児側因子や臍帯・胎盤形成の異常、また妊娠中毒症等の母体側因子での胎盤血流異常は胎児循環に負担を与え、胎児血流の異常を引き起こす。このような血流異常は胎児腎発生および発育に影響を与える可能性があり、出生後成人に至った際の慢性腎臓病発症に関連することが示唆されている。そのため、現在、動物実験にて、胎児期の血流と臓器発生への影響および成人後の予後の関連性の実証が盛んに研究されている他方、種差が課題となっている。また、現在発展している幹細胞研究により、ヒトiPS細胞からの胎児腎細胞の分化誘導および3次元組織構築が可能となっており、ヒト組織の体外での創薬研究等への応用が期待されている。しかしながら、現在の生体外ヒト胎児腎組織誘導培養では、血流刺激が欠落しており、長期維持培養が難しいことからも生体外での血流負荷の必要性が高まっている。このような背景のもと、本申請研究は、iPS細胞より誘導した生体外3次元ヒト胎児腎組織誘導培養への還流刺激を与えることでヒト腎発生への血流異常の影響を検討することを目的とし、さらにその後の維持培養を可能とすることで成人後予後への関連性を検討する還流培養系の構築を目標としている。現在までに、還流培養デバイスと、ヒトiPS細胞誘導胎児腎組織構築の検討を行い、短期間還流実験での最適還流量の決定まで検討が進んでいる。今後、還流量と腎組織発生の関連性を検討し、血流を模した還流の発生に与える影響を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、iPS細胞より誘導する胎児腎細胞を用いた3次元組織の安定的構築と供給が第一課題であり、各種論文報告されている中で、Wnt agonist とFGF9の添加後、3次元構築培養する手法を参考に、器官培養にて3次元組織を構築・供給する条件を確立した。iPS細胞からの誘導開始からおよそ19日以降より近位尿細管マーカー陽性組織および上皮細胞マーカー陽性組織が確認され、このような誘導因子の添加の時期と誘導率の厳密な調整が必要であることが明らかになった。一方で血管内皮およびリンパ管内皮細胞マーカーであるCD31陽性細胞の誘導も同時に行われており、腎臓を構築する種々の細胞の共培養された構造体であることが明らかになっている。様々な形態の還流チャンバーの構築を試み、灌流刺激を3日間行い、遺伝子変化や形態的に尿細管構造の変化を確認したところ、形態および遺伝子発現における変化が還流量に応答して観察され、血流を模した還流による組織発生構築への影響が観察可能であることが示唆されている。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ、本研究でのiPS細胞より誘導された3次元腎組織には糸球体血管導入が実現しておらず、世界的にも生体外にて導入が実現した報告はない。従って、生体外での糸球体血管の導入が急務となっている。29年度の検討の中でiPS細胞から誘導する組織内には血管内皮細胞マーカーCD31陽性細胞が出現、ネフリン遺伝子発現の出現ピークよりも先にCD31遺伝子発現のピークが観察される。一方でCD34陽性細胞を観察した際に、CD31陽性細胞と形態的にも非常に類似した状態で観察され、出現ピークがCD31よりやや早いことから、幼若な血管内皮細胞の誘導が先んじているのではないかと考えられる。 実際の胎児腎内の血管発生については多くの報告があり、腎髄質側の血管は腎門部付近からのangiogenesisにて、皮質側の血管はvasculogenesisにて形成が進行する可能性が考えられており、糸球体血管はvasculogenesisが関与するとされている。そこで、iPS細胞から腎臓誘導時に先んじて生じるCD34,CD31陽性の幼若な血管内皮細胞を回収、ネフロン遺伝子の発現が高まる時期の3次元腎組織へ導入し、還流刺激を加えることで、糸球体血管導入を試みる。また、胎児腎への影響が報告される薬剤の投与を還流液内に行うことで、還流刺激による影響の変化を観察、胎児腎への毒性試験応用の可能性についても検討を行う予定である。
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