研究課題/領域番号 |
17H02093
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
大矢根 綾子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (50356672)
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研究分担者 |
奈良崎 愛子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (40357687)
宮治 裕史 北海道大学, 大学病院, 講師 (50372256)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | レーザー / りん酸カルシウム / 象牙質 / 転写 / コーティング |
研究実績の概要 |
歯周組織再生に有効と考えられる生理活性物質とアパタイトのナノ複合膜を歯面上に迅速成膜するための、2種類のレーザー技術(液中成膜技術、膜転写技術)の開発を進めた。用いるレーザーは両技術に共通で、Nd:YAGナノ秒パルスレーザー(基本波 1064 nm)を採用した。 液中成膜技術では、歯のモデル物質である焼結水酸アパタイト基材に加え、ヒト象牙質基材(所用の手続きを経て抜歯済み歯牙より作製)を用いた検討を進めた。前年度の研究で有効性の確認された紫外レーザー光(3倍波 355 nm)を用い、リン酸カルシウム過飽和溶液中に設置された基材上にパルスレーザー照射を行った。照射面の組成と構造を、X線回折装置、透過電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分光分析装置などにより調べた結果、基材表面に対し垂直方向にc軸配向したアパタイトナノ結晶からなる、厚さサブミクロンのアパタイト膜の形成を確認した。本液中成膜技術が、ヒト象牙質基材に対しても有効であることが明らかとなった。 膜転写技術ではまず、生理活性タンパク質としてフィブロネクチンを担持したアパタイト膜(原料膜)を、光学的に透明なポリエチレンテレフタレートなどのサポート基材表面に、過飽和溶液法を用いて成膜した。この原料膜中のタンパク質の生理活性を出来る限り維持した状態でレーザー転写するためには、レーザーアブレーション時に発生する急激な温度上昇を回避する必要がある。そこで、これまでに基礎実証したタンパク質担持原料膜と別にレーザー吸収層を設ける手法により、タンパク質への高温負荷を低減した。また、衝撃吸収性のレシーバーとしてポリジメチルシロキサン(PDMS)樹脂を使用することで、転写堆積時の膜破砕を抑制した。以上により、生理活性を有するタンパク質担持アパタイト膜をPDMS樹脂上へ転写することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請時の実施計画書に従い研究を進め、おおむね期待通りの成果が得られている。液中成膜技術については、応募時に計画した平成29~30年度の実施内容をほぼ完了して国際誌上での論文発表に至った。さらに、平成31年度に計画していたヒト象牙質への応用について、一部の実験を前倒しで実施し、得られた成果に関する国内学会発表がハイライト講演に選出された。
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今後の研究の推進方策 |
それぞれのレーザー成膜技術(液中成膜技術、膜転写技術)について、前年度までに得られた成果に基づき、成膜機構の検証と得られた膜の機能実証を行っていく。 液中成膜技術では、抗菌性・歯質強化作用の期待されるフッ素を含むアパタイトを象牙質基材の表面に成膜し、成膜機構および生成膜の機能について検討する。具体的には、適量のフッ化ナトリウムを添加したリン酸カルシウム過飽和溶液中にヒト象牙質基材を設置し、前年度までの研究により最適化された照射条件を用い、同基材表面にパルスレーザー光を照射する。照射時間を1、5、30分と変化させることで、本法における成膜機構を追及する。基材の表面組成と構造は、走査電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型X線分光分析装置、X線光電子分光分析装置、透過電子顕微鏡などを用いて調べる。また、得られたナノ複合膜の抗菌性を、う蝕原因菌(S. mutans)を用いて評価する。 膜転写技術では、前年度の結果を基に、生理活性タンパク質(フィブロネクチンなど)を担持したアパタイト原料膜について、原料膜サポートに衝撃吸収材を利用したレーザー転写を検討するとともに、新たに象牙質などの種々の基材への転写を検討していく。転写により得られるレシーバー基材と転写膜の界面の状態を、透過電子顕微鏡による断面観察などにより詳細に調べる。本技術では、膜転写時の熱衝撃などが原料膜中の生理活性物質に与える影響の低減達成と転写膜とレシーバー基材との高密着化が主な課題となる。
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