研究課題/領域番号 |
17H02097
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石原 一彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90193341)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 両親媒性ポリマー / 拡散 / 細胞膜 / ホスホリルコリン基 / 電子伝達系 |
研究実績の概要 |
本研究では、前年度の成果を踏まえて両親媒性MPCポリマーの分子拡散による細胞膜透過する機構に着目した。両親媒性MPCポリマーは、水中では、MPC部位が外側に位置し疎水性部位を内側に包み込んだ会合体を形成する。この会合体が細胞膜中へ侵入する際は、リン脂質二重膜の内部が疎水性空間となっているため、疎水部が外側、親水部が内側という会合体の構造変化が生じる。そこで、側鎖の疎水基の構造に着目し、親水性・疎水性バランスの異なるMPCポリマー、および親水性ユニットと疎水性ユニットの組成を一定とし、ポリマー構造をランダム共重合体、ブロック型共重合体としたポリマーの合成および水中での会合体形成に関する知見を集積した。その結果、側鎖アルキル基の炭素数が大きくなるにつれて表面張力の低下し始める濃度が低くなり、両親媒性が高くなる傾向となった。さらに蛍光分光により会合体の疎水性ドメインの極性を測定すると、おおよそn-ブチルアルコールに匹敵することがわかった。一方、会合体を形成した後のポリマー分子の運動性は低下した。細胞膜の透過性は、蛍光ラベルしたMPCポリマーにより評価した。その結果、会合体が安定になる状況では透過量が減少すること、またMPCの単独重合体では透過が生じないことを見出した。このことは、ポリマーが細胞膜内の疎水性部分を透過する際には会合体の構造変化が生じ、疎水基が露出されていることを示唆する重要な実験的知見である。MPCポリマーの構造をブロック型とすると、疎水性基の会合が容易になるために、会合体がミセル様の安定な構造となる。したがって、この会合体の外側をPoly(MPC)鎖が覆うために、細胞に対する相互作用がなくなり、取り込みが起きなくなることが示された。この結果を利用して、細胞膜透過性MPCポリマーの機能化を図る.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞膜透過過程を明確にするような両親媒性MPCポリマーの構造設計に関連して、以下の研究成果が得られ、最終的なポリマーの分子設計、機能制御法に関する基盤を得ることができた。以下に具体的に述べる。 (1)MPCと疎水性の異なる側鎖を有するアルキルメタクリレートの共重合体を、リビングラジカル重合により合成することができた。ポリマー構造に関して確認を行い、分子量、組成の制御法を確立した。得られたポリマーは細胞に対して大きな影響を与えない性質を有することが認められた。 (2)MPCポリマーの構造をランダム共重合体、ブロック型共重合体とした際の溶存状態に関する知見を得た。会合体形成におけるパラメーターを整理し、構造変化の期待できる”柔らかな”会合体を形成する濃度、温度、さらにはポリマー構造に関する情報が得られた。これをポリマーの分子設計にフィードバックすることで、今後の電子伝達性官能基の導入に資する知見を得ることができた。 (3)細胞膜透過に関して、間接的ながら両親媒性特性が重要であることを明確にすることができた。さらに細胞膜の疎水性領域の透過に関しては、ポリマーの会合体構造が変化することが必要であることを見出した。また細胞膜を透過したポリマーは細胞質内に留まるが、細胞外に存在するポリマーの濃度が低下すると、逆拡散して細胞質内から細胞外に透過することが認められた。
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今後の研究の推進方策 |
機能性分子団として、酸化還元反応により電子の授受が可能なフェロセンを利用して、ポリマーシャトルに導入する。外部電極との電子の授受を、電子キャリアーとしてのポリマーシャトルにより行い、細胞内酸化還元状態、代謝経路・活性を制御できるようになった。この研究成果の発展により、遺伝子操作によらない新たな代謝制御技術として、エネルギー、医療を含む幅広い分野への貢献が期待できる。 (1) 好気条件下における電子注入:好気条件下における電子注入の実現可否を検討するため、抽出チラコイド膜]を用いたアッセイを行う。 (2) 細胞内酸化還元種に対する反応選択性の制御:キノン類を酸化還元ユニットとする電子伝達ポリマーの合成を行い反応選択性の評価を行う。現在までに、キノン類のモノマー合成に成功している。 (3) 細胞膜を物質が透過する際には細胞膜に微小な孔の生成が考えられる。その際には、細胞質内容物が漏出する。これを測定し、もしもイオンなどの漏出がないことが判明すれば、ポリマーシャトルの分子拡散機構がより明確になると判断する。そのために、細胞膜近辺のイオン濃度を正確に測定する必要がある。これには、FETイオンセンサーを応用する (4) 蛍光標識したポリマーシャトルのFRET現象を利用して、二光子レーザー共焦点顕微鏡により細胞膜透過現象を時間分解連続観察する。予備的な検討では、両親媒性MPCポリマーは細胞内に、10-9cm2/secのオーダーの透過係数(P)で透過することが判明している。これを精密に測定し、また細胞膜への溶解性(分配係数K)を評価することで、拡散係数(D=P/K)を算出する。一方、均質媒体中の拡散係数と分子サイズの間にはストークス・アインシュタインの式(D=kT/6πμr)が成立するために、粒径(r)を求めることができる。これより細胞膜の親水性/疎水性界面での分子形態変化を判断する。
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