細胞内への分子の輸送は、細胞工学を基盤とする組織再生医療、有用分子産生、生物資源の有効利用など多くの分野で重要な鍵となる。これまで細胞小包を経由する細胞内取り込みが優先的に作用し、細胞膜を透過する機構となる。本研究では、新しい細胞膜透過機構として分子拡散を提案し、これを実現するポリマーの構造を設計する。ポリマーに機能性官能基を結合することで、細胞内に効果的かつエネルギーを使うことなく分子輸送し、細胞特有の機能を強化するとともに高度に利用する基盤を構築することを目的とする。 電子輸送ポリマーによる代謝改変効果をコントロールするためには、電子輸送ポリマーを介した電子輸送速度の制御が必要とされる。MPCとビニルフェロセン(VFc)より、疎水性ユニット含有比と分子量の異なる3種類のpMFcを合成した。このpMF構造が電子輸送速度に与える影響を調査した。大腸菌と酵母を3極系電気化学セル内の最小培地に添加し、作用極に+0.60 Vの電位を印加することで、グルコース代謝由来の代謝電流値の比較を行った。その結果、両者において、組成が電子輸送速度に対して大きな影響を及ぼすこと、また分子量が小さくなると電子輸送速度が大きくなることが確認された。次に、各pMFcにおける電子輸送速度の大小に応じて、代謝改変の度合いが実際に変化するかを、酵母のグルコース嫌気解糖代謝 (エタノール発酵) をモデルケースとして検証した。酸化体のpMFcが存在する条件下で酵母を嫌気培養し、培地中のエタノール濃度を測定したところ、エタノール発酵の変化量と電子輸送速度は良い相関を示した。さらに電子輸送ポリマーの最先端応用として、細胞内電子伝達経路を健康することで、ヒトがん細胞にアポトーシスを誘導出来ることを実証した。これは新しいがん治療に道を開くと考えられる。
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