研究課題/領域番号 |
17H02104
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研究機関 | 公益財団法人国際科学振興財団 |
研究代表者 |
赤池 敏宏 公益財団法人国際科学振興財団, その他部局等, 主席研究員 (30101207)
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研究分担者 |
後藤 光昭 公益財団法人国際科学振興財団, その他部局等, 主任研究員 (80235001)
関 禎子 公益財団法人国際科学振興財団, その他部局等, 研究員 (90773309)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 上皮-間葉転換反応(EMT) / カドヘリン / 分子認識 / DDS |
研究実績の概要 |
我々は40年来、細胞を認識し制御する機能性バイオマテリアルを設計・開発する過程で肝細胞と星細胞あるいは各種上皮細胞と間葉系細胞を認識できる新しいナノバイオマテリアルを開発してきた。同時に、低毒性、高効率な炭酸アパタイトからなる核酸医薬キャリアナノ粒子も開発した。炭酸アパタイトナノ粒子を消化器ガンに対して適用し著しい制ガン効果を確認した(PLoSOne10,e0116022(2015))。これをふまえ、本研究においては、臓器組織における上皮-間葉転換反応(EMT)を識別できる細胞認識性の各種の糖質高分子とカドヘリンFc キメラ抗体(E-cad-Fc、N-cad-Fc)を上記炭酸アパタイトナノ粒子に付与することでこれまでに無い高効率な線維症治療システムを構築し肝・肺・腎などの主要臓器の炎症、線維症、ガンの画期的な治療DDS 用ナノ粒子システムの開発を目指す。上皮組織崩壊時に発現すると言われているN‐カドヘリン分子と、間葉系細胞膜表面に露出するビメンチン、デスミンに注目する。さらに、肝・肺・腎等各種上皮系組織の破損に伴いN-カドヘリンを露出することにも着目して、前述の露出状態を識別するGlcNAc(N-アセチルグルコサミン)側鎖型糖鎖高分子やN-カドヘリンFc 分子をコーティングした炭酸アパタイトナノ粒子中にTGF-β等による線維化を抑制する合成医薬ピルフェニドンやsiRNA等を封入して治療効果を検討する。本プロジェクトは特に肝臓線維症(肝硬変)に注力する。今回、E-cad-FcとN-cad-Fcをコーティングあるいは、結合した炭酸アパタイトナノ粒子やポリスチレンビーズと細胞との相互作用を検討し、EMT現象を観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、炭酸アパタイトナノキャリアーの微細化及びターゲッティングの条件検討を行い、in vitro(細胞培養条件)でのEMT 現象のモデルを利用した取込解析、臓器内での動態を観察する。EMTモデル動物を用いて効果の確認を行う。また、炭酸アパタイトナノキャリアーの実用化に向けた安全性の評価も行う。これに加えて1)炭酸アパタイト(CAP)ナノ粒子の最適化とEMT 認識材料のコーティング技術の確立。2)各臓器の炎症モデルの製作および構成細胞の分離・培養技術の確立を追求。3)蛍光顕微鏡で経時観察をしつつ、上皮系細胞のEMT 誘導ができるin vitro モデルを確立し、E-カドヘリン、ビメンチン等の発現を追跡できるシステムを構築する。という目標を掲げ検討を行った。 ①炭酸アパタイトナノ粒子の微細化は、糖鎖高分子を最適な条件で混合することにより、50~150nm以下に調製することができたが、目標の30~40nmには、到達できなかった。②EMT検出のため、E-cad-FcとN-cad-Fc炭酸アパタイトナノ粒子にコーティングし、細胞との相互作用を検討したが、コーティングが不十分で有り、明確な差異を見出すことは出来なかった。③E-cad-FcとN-cad-Fcをそれぞれコートしたシャーレ状で、細胞を培養し、その形態や性状を観察した。その結果、EMTの前後で、これらカドヘリンに対する相互作用が大きく異なることが観察された。④肝硬変のキャスティングボードを握る星細胞モデルであるTWNT1に対して、siRNAを内包したキャリアーで殺傷効果を検討し、糖鎖高分子をコーティングしてその効果を検討した。現在のところ、キャリアー単独でも非常に高い殺傷能力を持っていたため、糖鎖の効果は評価できていない。⑤動物での評価は、炭酸アパタイトナノ粒子へのコーティングが不十分であったため、今回行えなかった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度行えなかった動物実験を重点的に行う、正常C57BL/6 マウス及びHFCD-DEN モデルでPVGlcNAc 他、キトビオース高分子をコートした炭酸アパタイトの肝臓の星細胞への集積をリアルタイムで観察する。次の段階として、炭酸アパタイトナノ粒子に対し、EMT 変換を認識する、E、N、VE カドヘリンの誘導体であるE-cad-Fc、N-cad-Fc、VE-cad-Fc というキメラ抗体をコーティングし、糖鎖高分子での検討と同様に線維症への集積等を確認する。1)炭酸アパタイト(CAP)ナノ粒子の最適設計(安定化等)とEMT 認識材料(各主要臓器の上皮細胞)、間葉系細胞認識材料のコーティング技術を確立する。2)各臓器の炎症、ガン等のモデルの製作および構成細胞の分離・培養技術の確立を追求する。各細胞とその認識材料でコートされた炭酸アパタイト(CAP)ナノ粒子の取り込みと効果を検討する。3)上皮系細胞であるMDCK 細胞、HepG2 等E-カドヘリンを発現する細胞系を単層培養した上で各種EMT 誘導を作用させ、蛍光顕微鏡で経時観察をしつつ、EMT 誘導ができるin vitro モデルを確立し、E-カドヘリンFc、ビメンチン、デスミン等の発現を追跡できるシステムを構築する。さらに、(1)炭酸アパタイトナノ粒子のシステムを血中に投与し、標的疾患を識別しうる認識素子結合型炭酸アパタイトナノ粒子の血中安定性(サイズ、凝集の有無等々)を評価する。(2)各種線維症等の疾患モデル系における標的部位へのサーキュレーション、血管透過性(EPR 効果や涙道透過性)が計画通り実現しているかどうかの評価を行う。(3)投与されたPVGlcNAc、E/N-cad-Fc 被覆の炭酸アパタイトナノ粒子によるEMT 認識が実際を評価する。以上、ガンの新しい革新的治療システムの確立を目指したいと考える。
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