研究課題/領域番号 |
17H02108
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
蜂屋 弘之 東京工業大学, 工学院, 教授 (90156349)
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研究分担者 |
平田 慎之介 東京工業大学, 工学院, 助教 (80550970)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超音波医学 / 定量診断 / shear wave / エラストグラフィー / 組織鑑別診断 / レイリー分布 / 肝炎 / びまん性肝疾患 |
研究実績の概要 |
慢性肝疾患は我が国の医療分野における主要な対象である。本研究では,これまでの成果を基盤に,疾患の進行により変化する複数の生体組織音響特性を融合することにより,生検を超える安定度と臨床的に十分なロバスト性を持つ非侵襲な慢性肝疾患の定量診断手法を実現することを目的としている。そのため,1. 縦波・横波伝搬と減衰を考慮できる病変組織の音響構造モデルの開発,2. 音響特性変化モデルを用いた超音波の送受により臨床的に得られる複数の音響特性情報の理解,3. 臨床的に得られる複数の生体組織音響特性を融合し,初期病変にも十分な感度をもつ慢性肝疾患の高精度定量診断の確立を進めている。 2017年度は,病変によるずり波(横波)伝搬の状況を確認できるよう,本補助金により超音波実験用プラットフォームを整備し,ファントムを用いて,剛性・粘性の違い,機械的加振や音響放射圧による加振などにより,どのような横波が伝搬するのかを検討した。機械的加振は,ファントム表面からのインパルス状の加振に加え,20 Hz~200 Hzまでの加振が可能な実験系を整え,ずり波の伝搬速度の周波数依存性の計測を行った。また,伝搬波面の観察も行い,ファントム断面内での反射波や,深度方向の伝搬速度変化があるかなどについても検討した。その結果,市販の診断装置で計測される生体組織内での深度方向のずり波伝搬速度の変化は,測定に用いている高周波の超音波の減衰などの影響など,実際の生体組織の速度変化とは異なる可能性があることがわかった。このような臨床現場での測定上の問題点を把握した後,ラット肝臓での測定が十分な精度で行える条件設定について検討した。ずり波伝搬速度の計測と平行して,これまで開発してきた,超音波断層画像から線維組織を抽出する手法の最適化を行い,この抽出結果とずり波伝搬速度計測を組み合わせ診断精度を向上させる方法の検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,疾患の進行により変化する複数の生体組織音響特性を融合することにより,われわれの開発している慢性肝疾患の定量診断手法を,これまで以上に高精度化することを目指している。2017年度は,ずり波を種々の手法で励振し,その伝搬を定量的に観察し,測定上の問題を検討することを目的としたが,パルス的な加振に加え,周波数を任意に変化できる加振についても実現でき,その伝搬を観測できた。さらに,臨床的に用いられる診断装置の測定結果と比較検討もでき,信頼性の高いデータを取得できる見通しを得ることができ,ほぼ目的を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
病変による横波伝搬の変化を観察するため,超音波実験用プラットフォームを拡張し,実験系も整備することにより,ファントム中の横波伝搬が観察可能になった。今後は,このシステムを活用し,さまざまな特性のファントムを作成し,生体中の横波伝搬にどのような差が生じるかを定量的に明らかにする。このようにして蓄積されたファントムによる横波伝搬の知見をもとに,臨床的な装置による計測の信頼性について検討する。 ファントム実験と平行して,ラットによる実験もできる準備を進めてきた。ラット肝臓を用いて,臨床的な装置によるずり波の伝搬速度の結果と,ファントムによる計測の知見を統合し,どのような生体組織の変化が,診断情報と結びついているのかを定量的に明らかにする。線維化が生じる疾患や,線維化を伴わない脂肪肝のような疾患が,超音波画像に与える影響と横波速度に与える影響の関係を評価し,診断精度が高く,初期病変に敏感な診断手法の基礎を与える。 病変による組織構造の変化と,臨床に得られる複数の音響特性変化の比較を系統的に実行できる3次元組織音響特性変化モデルを構築する。このモデルは,計算機上とファントムの両者で構成し,さまざまな疾患を表現できるようにする。特に初期病変組織構造の変化が表現できるよう,臨床的な知見も利用しながら段階的に変化するモデルを構築する。さらに粘性の効果も取り入れ,縦波・横波に対する影響も評価できるようにする。 以上より,これまで開発した慢性肝疾患の定量診断手法の高精度かを進展させる。
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