マグネシウム(Mg)合金は、生体内で分解し吸収される金属材料として、ステント・骨接合材等の医療応用が期待されている。しかし、体内での分解に伴う水素発生により埋入部周辺組織中に空孔が形成されること、それにより周辺組織の正常な修復・治癒が妨げられた臨床例が報告されている。従来の生体吸収性高分子・セラミック材料には分解に伴い水素を発生する材料はなく、組織中の空孔形成リスクの適切な評価法は存在しない。Mg合金製医療デバイスの成功のためには、組織中の空孔形成挙動の解明と、臨床前の適切な空孔形成リスク評価が必要である。そこで、本研究ではモデル生体組織中の空孔形成挙動の解明を行い、in vivoでの結果と比較することにより、空孔形成リスク評価法の確立を目指す。 本年度は、開発した空孔形成挙動観察手法の汎用化を考慮し、試験系に影響を及ぼしうる因子について検討した。まず、モデル組織に及ぼすpHの影響を、モデル組織の強度を指標に検討した。その結果、生体組織内と同じpH7.4 で最も強度が高く、それ以上でも以下でも強度が低下することが判明した。このことは、pH変化によりモデル組織に添加した増粘剤の会合状態が変化し、結果としてモデル組織内の拡散速度が変化する可能性を意味している。したがって、評価試験の際に大きなpH変化が生じないよう配慮する必要性が示唆された。さらに、モデル組織にpH指示薬を添加し、吸光度変化を測定することにより、モデル組織中のイオンの拡散速度の可視化手法を開発した。本法により、モデル組織中の増粘剤濃度とイオンの拡散速度との関係を定量化でき、in vivo中の拡散速度との比較検討が可能になった。
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