研究課題/領域番号 |
17H02175
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
石川 智久 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (10201914)
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研究分担者 |
金子 雪子 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (00381038)
白井 康仁 神戸大学, 農学研究科, 教授 (60263399)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖尿病 / β細胞 / ジアシルグリセロールキナーゼ / ジアシルグリセロール / 増殖 |
研究実績の概要 |
これまでに、siRNA導入によりジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)δをノックダウン(KD)したβ細胞株MIN6B細胞を用いた解析により、BrdU取り込みの増加、及びcyclin B1の発現の増加を確認した。そこで、さらにその機序について解析を行った。β細胞では核内に局在するDGKδが抑制されると、核内にジアシルグリセロール(DAG)が蓄積することが予想される。そこで、DAGにより活性化されるプロテインキナーゼC(PKC)の関与を検討した。PKCの核内発現量を検討した結果、PKCαがcontrol細胞に比べてDGKδKD細胞で増加していることが示された。すなわち、DGKδ欠損により核内DAG量が増加し、PKCαの核移行が促進されることで、cyclin B1発現が増加する可能性が示された。 一方、DGKδ抑制による糖尿病改善効果に関しては、これまでに、β細胞特異的DGKδ欠損マウスにストレプトゾトシン(STZ)を投与すると、投与60日目において、ヘテロ欠損マウスの随時血糖値がcontrol マウスと比べて有意に低値であることを示した。そこで、STZ投与11及び60日目のcontrol マウス、ヘテロ欠損マウス、ホモ欠損マウスを用いて更なる検討を行った。血清インスリン濃度及び膵臓インスリン含量を測定した結果、STZ投与11日目では3群間で差は認められなかったが、60日目ではヘテロ及びホモ欠損マウスにおける血清インスリン濃度及び膵臓インスリン含量がcontrolマウスと比べて有意に高値であった。すなわち、DGKδ欠損による血糖値の低下は膵臓由来のインスリンによることが示唆された。 以上の結果から、β細胞におけるDGKδ発現の低下により、STZによる破壊後のβ細胞の回復が促進され、インスリン含量及び分泌量が増加して血糖値が改善する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
飼養環境が原因と考えられるマウスの繁殖障害が生じており、膵β細胞特異的DGKδ欠損マウスの十分な出生数が得られず、研究計画に影響が出ている。こうした飼養状況であることから、誘導型β細胞特異的DGKδ欠損マウスの作製も遅れている。環境の改善に直ちに対応することは難しい状況であることから、in vivoでの検討については研究計画の見直しを考えている。一方、当初予定していたDGKδ欠損Sox9LacZ/+マウスの作製は、DGKδ欠損によりβ細胞の新生が誘発されることを示唆する結果が得られなかったことから、中止することとした。以上のように、in vivo検討は、当初の予定よりもかなり遅れている。 一方、細胞レベルでの解析は順調に進んでおり、シグナル伝達系の解析を進めている。なお、MIN6B細胞のDGKδノックダウンにより、増殖に関与する因子の変化は確認できた一方、新生に関与する因子の変化は認められなかった。そこで、今後はDGKδ発現低下によるβ細胞の増殖を介した細胞量の増加の機序にターゲットを絞って、今後の解析を行っていく予定である。引き続き、DGKδ抑制により変化が認められるシグナル関連分子について詳細な解析を行う。特に、PKCαの関与が示唆されたことから、PKCαを介するシグナル伝達系に焦点を当てて解析を行う。さらに、当初は予定していなかった、増殖により増えたβ細胞の成熟度等の特性を評価 する実験も開始した。
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今後の研究の推進方策 |
STZ処置を施した膵β細胞特異的DGKδヘテロ欠損マウスでの検討により、DGKδ欠損はβ細胞の増殖を促進し、β細胞量を回復させ、血糖上昇を抑制することが示唆された。今年度は、この改善効果について更なる検討を行う。まず昨年度に引き続き、治療効果をより適切に評価するため、RIP-CreERマウスをDGKδ-loxPマウスと交配し、タモキシフェン投与によりDGKδ欠損が誘発されるマウスを作出して、ストレプトゾトシン投与によりβ細胞量を減少させた状態でタモキシフェンを投与してDGKδ発現を低下させた場合の効果を検証する。また、増殖したβ細胞が成熟β細胞であるかを、単離膵島を用いたインスリン分泌解析や成熟β細胞の分子マーカー(MafAなど)の免疫染色などにより確認する。 また、DGKδ欠損マウス膵島ではcyclin B1の発現上昇が認められたことから、DGKδ欠損によるβ細胞量増加にcyclin B1が関与していることを検証するとともに、その上流シグナルについて解析する。DGKδKD MIN6B細胞での検討を行うことにより、DGKδ発現低下で変化するシグナル関連分子の同定を目指す。これまでの検討により、DGKδKD MIN6B細胞において、核内のPKCαが増加することを見出している。そこで、DGKδ-PKCα-cyclin B1-β細胞増殖の連関を検証する。PKCα阻害薬やPKCαKD MIN6B細胞を用いることにより、cyclin B1の発現や細胞周期、増殖の変化をフローサイトメトリーやBrdU取り込み測定により評価する。関与が示唆された他の因子についても同様の検討を行い、β細胞量の増加を引き起こす細胞内シグナル伝達系を明らかにする。
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