研究課題
骨格筋は多くのエネルギーを消費する代謝臓器であるとともに,生理活性物質マイオカインを分泌する分泌臓器としての役割を有し,全身の臓器を制御する。一方,腸内における細菌の働きや免疫制御機構が解明されつつあり,生体最前線においてバリア機能を果たす腸が、管腔内から血液中への物質透過を制御することで全身に影響を及ぼすことが明らかになってきた。本研究は,骨格筋における代謝・分泌機能と腸における細菌叢・バリア機能の相互作用を明らかにすることを目的とし,腸バリア機能,腸内細菌叢の変化と骨格筋のエネルギー代謝能の関係について検討した。食品添加物によって誘発されるLeaky gutモデルマウスにおいて,血中インスリン濃度の上昇,骨格筋のインスリンシグナル伝達系の低下を観察した。このことは複数のLeaky gutモデルにおいて共通して観察された。また,腸管透過性の亢進は,代謝能の低下に先行してみられたことから,腸管透過性の亢進が骨格筋の耐糖能を減弱させると考察した。また,運動トレーニングを負荷したマウス(ドナー)から得た便を投与したマウス(レシピエント)に,8週間高脂肪食を負荷したところ,耐糖能の減弱を抑制した。走運動を負荷したマウスにおいて,運動強度に依存して腸管透過性の亢進が認められた。このことに,腸タンパク質の酸化修飾が関与することが示唆された。一方,AMPKγ3遺伝子の欠損により骨格筋の代謝を低下させたマウスにおいて,腸管透過性が高値であるとともにタイトジャンクションタンパク質が低値である傾向を認めた。また欠損マウスでは,腸管免疫を調整するマイオカインの発現および作用が減弱することが観察された。これらの知見は,腸と骨格筋が互いに相互作用し,機能制御していることを示唆している。
3: やや遅れている
腸バリア機能の低下によって,骨格筋代謝が減弱することを示唆した。糖負荷試験,インスリン負荷試験等により,耐糖能への影響について,さらなる検証が必要である。また,代謝に影響を与える液性因子の関与についても明らかでない。便移植試験においては,ドナーからレシピエントへ伝播した腸内細菌が代謝を制御することを示唆した。このことに液性因子が関与すると考えられるが,このことについての検討も課題として残された。
Leaky gutモデルマウスにおいて,糖負荷試験,インスリン負荷試験を行い,耐糖能,インスリン感受性への影響を詳細に評価する。また,骨格筋組織において,糖取り込みに関わるシグナル伝達系の活性レベルについて調べる。このとき,腸内環境を改善するプロバイオティクスを摂取させた場合,バリア機能および耐糖能が改善するか観察する。また,腸管から循環中に漏出する液性因子に着目し,その骨格筋代謝への干渉作用について,培養細胞モデルを用いて検討する。他方,腸内細菌を移植したレシピエントマウスの代謝変化の詳細について解析する。骨格筋の遺伝子発現を網羅的に測定するとともに,タンパク質シグナル伝達系の活性レベルについて観察し,筋代謝へ及ぼす影響のメカニズムを検討する。さらに,この作用を仲介する血液中因子を探索する。
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