研究課題
高齢者は感染症に対して脆弱であり、問題となる疾患の多くは慢性炎症などの免疫学的制御の破綻との関連が強く疑われている。本研究では免疫老化状態でのT細胞における機能低下・異常の分子メカニズムを明らかにすることを目的とし、まず免疫老化が病態の本質であるHIV感染症をモデルとして解析を始めている。HIV感染症では病態進行とともに免疫老化が促進されることが明らかとなっているため、本年度は未治療で血中ウイルス量が高く病態進行の早い感染者(non-controller)と血中ウイルス量の低い病態進行の遅い感染者(controller)を対象として、末梢血中のT細胞を用いて網羅的DNAメチル化解析を行い、群間で比較解析を行った。末梢血中のT細胞は多様な分化段階の機能の異なる細胞の集合体であるため、まずこれまでの研究で特定の機能分子においてnon-controller、controller間でDNAメチル化頻度に差の見られた早期エフェクターメモリーCD4陽性T細胞に着目した。T細胞の分化段階により発現の異なる細胞表面分子を染色、セルソーターにより早期エフェクターメモリー(CD45RA-CCR7-CD27+CD28+)CD4陽性T細胞を分画した。臨床検体由来のため、各サンプル10万個前後の早期エフェクターメモリーCD4陽性T細胞しか得られなかったが、RRBS (Reduced Representation Biulfite Sequencing)法によりメチローム解析を行うことができた。non-controller群とcontroller群でDNAメチル化頻度が有意に異なるCpG部位が多数検出された。まず、転写開始地点近傍の複数のCpG部位で有意差が見られた遺伝子に焦点を絞り、より詳細な解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、本研究の基盤となるデータを入手するため、網羅的メチローム解析を行うことを主目的とした。対象となるHIV感染者試料を用いて早期エフェクターメモリーCD4陽性T細胞分画の分取を行い、RRBS法によるメチローム解析に必要なDNA量を得ることができた。メチローム解析を行い結果を得ることができ、non-controller群、controller群間で有意差のあるCpG部位候補、遺伝子候補を見つけることができたため、概ね予定通りに進捗していると考える。
網羅的メチローム解析によりnon-controller群とcontroller群で有意差の見られたCpG部位について、より多くの検体を用いて各CpG部位ごとにBisulfite sequencing法によるメチル化解析を行い、メチローム解析の結果を再検証する。また、各CpG部位メチル化の遺伝子発現への影響を明らかにするため、各CpG部位が位置する遺伝子について、定量RT-PCRによる遺伝子発現解析を行い、当該CpG部位のメチル化と遺伝子発現の関連性について検討する。また、フローサイトメトリーを用いて、各T細胞分画における老化関連分子の発現解析を行い、DNAメチル化頻度に差の見られた遺伝子との関連性を調べることで、免疫老化状態にあるT細胞の特性を明らかにする。
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