研究課題
本研究では、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)サブタイプに対する有毒二次代謝産物等の結合性を調べるハイスループットスクリーニング(HTS)系を樹立し、フグ毒テトロドトトキシン(TTX)誘導体からなるフォーカストライブラリー、クロイソカイメン由来フラクションライブラリーを基に、各種疾病治療の原石となるNavサブタイプ選択的阻害剤の探索を目的とする。平成29-30年度、既報を改変し、Nav阻害剤を探索するHTS系の樹立を試みたが、断念した。元々、HTS系で実施する予定であったクロイソカイメン抽出物からのNav阻害剤の探索を電気生理学的手法の一つであるホールセル記録法を適用して実施した。各種有機溶媒による分画、二度の順相クロマトグラフィー、逆相HPLCを実施し、Nav阻害剤の単離に至った。各種NMRを測定したが、微量であるため構造決定には至っていない。今後、新たにクロイソカイメンを調達し、同化合物の構造決定を試みたいが、コロナウィルスの蔓延が続くと適切なサンプリング時期(ー6月)を逸しかねず頭を痛めている。一方、元々の研究協力者、新たに協力して頂くことになった研究者よりお預かりした各種TTX、STX誘導体(天然型・非天然型)のNav阻害活性を調べ終え、TTX誘導体については2017年に、STX誘導体については2020年にBrit. J. Pharmacol.、Chem. Eur. J.に公表に至った。何より安定性の問題でNav阻害活性を議論できなかった4-epiTTXを評価できた功績は特筆に値する。今後も化合物の供給をして頂ける限り、同戦略を継続していく計画である。
2: おおむね順調に進展している
Nav阻害物質を探索するHTS系の開発は志半ばであるが、電気生理実験によりクロイソカイメンよりNav阻害剤の探索は順調に進んだ。予想に反して物質量が少なく、追加単離が必要であるが、サンプリングさえ実施できれば当該Nav阻害剤の公表に至ると確信する。元々、協力研究者からの提供を望めていたTTX類縁体はほぼ全てNav阻害活性を調査済みである。特定のNavサブタイプに選択性を示す化合物は見出されていないが、確かに容易ではない課題であることを再認識し、その結果、Navサブタイプ間の配列相同性を全領域において実施し、一次配列において低相同性領域を見いだすことができた。今後は新しい着想の基、再びHTS系の樹立を目指すが、本研究で得られた知見を総動員して取り組むと、最終年度ではあるが目覚ましい結果にたどり着く可能性は残されている。
Nav阻害物質のHTS系の開発に関して新たな着想を元に再開する。一過性発現させるとNavが継続した開放状態を迎える変異体を発現させると致死する細胞を、発現過程で共存させるTTXが蘇生させる作業仮説を基に、Nav阻害活性を細胞致死率として捉える戦略である。持たせる変異については既報を基に目処をつけており、今年度、提唱した作業仮説を検証する予定である。協力研究者からお預かりするTTX、STXの天然型、非天然型の類縁体、誘導体について数化合物を除いてNav阻害活性を調査済みである。一方、新規Nav阻害剤の探索については、既に得られている化合物の追加単離を行い、構造を確定したい。しかし、研究実績の概要欄にも記載した通り、新型コロナウィルスの蔓延に際してサンプリングが実施できるかどうかが課題である。数々のTTX、STX誘導体を調査し、そう容易にNav阻害活性におけるサブタイプ選択性を創出することが難しいことがわかった。原因として、これら化合物の結合部位に関してNavのサブタイプ間での相同性が極めて高いことがあげられる。Navの全領域に関してサブタイプ間の相同性を調べてみると、細胞質側に突出した領域ではさほど相同性が高くないことに気づいたため、最終年度ではあるが、新たな試みとして、この細胞質側の領域に高結合性を示す核酸アプタマーの探索を開始したいと考えた。Nav結合性の核酸アプタマーは前例がなく、また、細胞質側に結合してNav阻害活性を有する化合物も知られていないことから、挑戦性の高い計画であるが、次予算取得を見込める基礎データの集積と位置付けて、是非、実施したいと考えている。
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