研究課題/領域番号 |
17H02200
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松岡 茂 東京大学, 医学系研究科, 特任准教授 (60456184)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スカベンジャー受容体 / 分子認識 |
研究実績の概要 |
マクロファージにより生産されるApoptosis inhibitor of macrophage(AIM)は3つのscavenger-receptor cysteine-richドメインから構成される分子量約40kDaの可溶性の血中たんぱく質で、体内の異物や老廃物の除去を促進して腎不全や肝臓がんなどさまざまな疾患の治癒に寄与していることが予想されている。このメカニズムとして、AIMの豊富なシステイン残基が体内の活性化学種を補足し、毒性分子を不可逆的に結合したAIM分子がマクロファージなどにより貪食・分解・排泄される分子機構が考えられたので、本年度はこの仮説を検証した。はじめに、毒性分子とタンパク質の化学反応性をin vitro実験で調査した。はじめに腎不全時に血中に蓄積される尿毒素の一種であるカルボニル化合物とAIMを試験管中で混合し、質量分析および蛍光分析により経時的に反応生成物を検出・定量し、代表的な血中たんぱく質である血清アルブミン(ALB)と反応性の比較をおこなった。その結果、AIMのカルボニル付加体の生成速度はALBの約1.3倍大きかった。また、尿毒素の一種であるタンパク質カルボニル化合物付加体としてカルボキシメチルリジン含有BSA(CML-BSA)とAIMの結合親和性を等温滴定熱量計で調査したところ、コントロールのBSAは結合しなかったのに対し、CML-BSAでは明確な反応熱が観測され、Kd値3.6μMの結合親和性が得られた。これらのin vitro実験の結果は、AIMがカルボニル化合物に関連した尿毒素と結合することを示唆したが、in vivoにおけるAIMの治癒効果を説明するには不十分であると考察された。一方、differential scanning fluorimetryを用いて、AIMと金属イオンの相互作用を調べた結果、鉄イオンと結合することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究開始当初から予想していた、AIMによる尿毒素の代表的成分の一種であるカルボニル化合物の捕捉機構ついて調査した。しかし、in vitro実験では、AIMによるモデル動物治療効果を説明するのに十分な結果を得ることができなかった。一方で、鉄イオンとAIMが特異的に結合することを見出し、これにより鉄を介した活性酸素発生が強力に阻害されることが明らかとなった。当初の予定とは異なるが、AIMの未知の分子機能を探る手掛かりを新たな発見から得ることができた点で、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、初年度に発見したAIMによる鉄を介した活性酸素の発生阻害の分子機構と生理作用の解明を中心として研究を推進する。具体的には、鉄の結合と活性酸素の発生阻害に関与するアミノ酸配列を特定し、その三次元構造と分子機構の関連を明らかにする。また、AIMの機能モチーフを用いて、活性酸素による障害からの培養細胞の保護作用を検討し、AIMの生理作用に対する活性酸素発生阻害活性の寄与を調査する。
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