研究課題/領域番号 |
17H02202
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 浩之 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (30274434)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中性子捕捉療法 / ホウ素デリバリーシステム / アルブミン / 結合部位同定 / マレイミド / クロソドデカボレート |
研究実績の概要 |
HSAをキャリアとしたホウ素デリバリーシステムを達成するために、平成29年度は次の課題に取り組んだ。 (1)MIDの簡便な合成方法の確立 クロソドデカボレート(1)は、ホウ素12個からなる2価アニオン20面体クラスターであり、水溶性である。これまでに、アジド体を経るMID合成法を確立しているが、途中のStaudinger還元において、大量のホスフィンオキシド(O=PPh3)が副産物として生じるという問題点があり、将来的に臨床応用を考えた場合、GMP製造を視野に入れたMIDの簡便な合成方法を開発する必要があった。本研究では、アンモニアを用いた直接アミノ化反応によりジオキサン開環反応を検討した結果、3工程でMIDの合成に成功した。 (2)MIDの血清アルブミン結合部位の同定 マレイミドは、通常CysのSH残基と選択的に反応するが、本申請者が開発した“MIDは血清アルブミンに対し3つ以上結合する”ことを既に明らかにしている。本研究では、MIDの結合部位を同定するとともに、その結合機構を明らかにし、最大許容結合数を決定することを目的に研究を実施した。通常化合物の結合部位を同定する際、HSAをトリプシンなどの酵素消化によりペプチド断片化させ、MALDI-TOF-MSで同定するが、MIDは2価の陰イオンホウ素クラスターを含むため、結合したペプチドがイオン化されないことが分かっていた。そこで、還元反応で陰イオンホウ素クラスターがペプチドから排除できるように、S-S結合を分子内に導入したSS-MIDを新たに開発することに成功した。このSS-MIDを用いることで、化学修飾後還元的条件により容易に陰イオンホウ素クラスターを除去することが可能となり、SS-MIDがCys34以外にも少なくとも3つのLys残基, Lys221, Lys413, Lys431に結合していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年に細胞評価実験に使用する予定の実験装置が不足に故障したため、その修理に・整備に時間が必要となり、細胞評価実験の再開に5ヶ月間を要したものの、その後は順調に推移し、SS-MIDのアルブミン結合部位同定に関しても、DTTを還元剤として用いることで、ホウ素クラスターを除去したペプチド断片を調整することができた。このペプチド断片をMS/MS解析することで、予想通りSSーMIDはLys残基にも結合していることを明らかにでき、その結果は論文としてイギリス化学会の国際学術誌に発表するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
MIDは生理的条件下でLys残基と容易に結合することできることを明らかにしたが、HSAはマレイミドと反応可能なフリーSHを有するCysを1つ(Cys34)分子内にもつことから、このCys34にペプチドリガンドを導入し、続いてLys残基にMIDを導入することで、腫瘍へのターゲティング機能をもつHSAが創生できると考えられる。そこで、次年度は難治性がんである脳腫瘍を標的とした有効なホウ素デリバリーシステムを確立する。具体的には、脳腫瘍や脳腫瘍新生血管に過剰発現するインテグリン(αvβ3/αvβ5)を特異的に認識する環状RGDペプチドリガンド合成し、HSAのCys34へ導入する。
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