ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、ホウ素薬剤 BPAと加速器中性子源との組み合わせによる頭頸部腫瘍への治療が2020年3月にPMDAにより世界に先駆けて我が国で承認された。本研究では、BPA非感受性がん患者に対する BNCT適応疾患拡大の実現を目的とし、ヒト血清アルブミン(HSA)をホウ素キャリアとした次世代BNCTを構築し、根治を目指した。 本研究では、まず分子内にマレイミド基を有するドデカボレート(MID)の簡便な合成方法を確立した。次に、より腫瘍組織にホウ素を高濃度で集積させるために、多くの腫瘍細胞表面に高発現しているインテグリンに着目し、そのリガンドである環状RGDペプチドにリジンを介してその側鎖にマレイミドを導入したcRGDfK(Mal)を合成した。このcRGDfK(Mal)を HSAのフリーSHを有するCys34へ導入し、続いてMIDを反応させることで、腫瘍へのターゲティング機能をもつcRGD-HSA-MIDを開発した。さらに、細胞内での局在ならびにアルブミンへの結合を検証するために、MID抗体の作成に成功した。 cRGD-HSA-MIDでは、HSAに対しMIDが平均3分子結合していることが、MID抗体を用いた解析により明らかとなった。また、cRGD-HSA-MIDはインテグリン高発現細胞であるヒト脳腫瘍U87MG細胞に対し、高い集積性を示す一方、インテグリン発現が低いA549細胞に対しては取り込みが低いことがMID抗体により確認された。 ヒト脳腫瘍U87MG細胞を移植したマウスに対し、近赤外蛍光色素Cy5を導入したcRGD-HSA-MIDを尾静脈注射により投与し、近赤外蛍光イメージャーにて動態を追跡したところ、投与後8〜12時間で腫瘍への高い集積性が観察され、cRGD修飾していないHSA-MIDと同様の体内動態を示すことがわかった。
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