本研究では、遺伝子の点変異を原因とする疾患に対する治療法として、変異したRNAの遺伝コードを人工酵素複合体によって部位特異的に修復することによって疾患を治療する方法の確立を目的としている。これまでにRNA editingを触媒するADAR1及びAPOBEC1の活性部位をMS2システムを介してguide RNAと結合させる事で任意の標的RNAのAおよびCを脱アミノ化し、A⇒I (G)或いはC⇒U変換を触媒する人工酵素-RNA複合体を創成に成功したが、変換効率がさほど高くないという問題点があった。最終年度である今年度は疾患治療への応用を目指して、RNA変換効率の向上と実際の疾患モデルを対象とした遺伝コード修復研究に取り組んだ。 ADAR1を用いた人工A⇒I変換酵素複合体では、標的RNAに相補的な配列の両側にMS2-loop RNAを配したguide RNAによって格段にRNA変換効率が向上し、40%程度の遺伝コード修復に成功した。APOBEC1を用いた人工C⇒U変換酵素でも同様なguide RNAによる変換効率の向上が観られた。 P型ATPase遺伝子にT⇒C変異を有するmacularマウスを動物におけるRNA修復の対象として、初代培養線維芽細胞を確立した。変異点近傍の配列を元にguide RNAを設計・構築し、APOBEC1と共にmacularマウス由来線維芽細胞に導入し、細胞内RNAの遺伝暗号変換を試みた。細胞内RNAを回収し、塩基配列解析を行ったところ、人工RNA編集酵素システムを導入した細胞ではC⇒U変換が確認され、遺伝暗号修復が立証できた。変換効率は約20%程度であり、シトクロムCオキシダーゼ活性の回復も確認できた。また、人工酵素とguide RNAのプラスミドを融合させた1プラスミドシステムの構築も行い、従来の方法より変換効率が優れていることも確認した。
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