研究課題
本研究の目的は、合成化学・生命化学研究を有機的に結びつけることで、メチローム解析を革新させることである。具体的には、[課題1] 新検出プローブの創出、[課題2] 酵素及び基質選択的阻害剤の開発、[課題3] 酵素/基質/メチル化サイトの同定、[課題4] 階層を超えたエピゲノム制御への展開に取り組んでいる。従来のタンパク質メチル化阻害剤の開発研究では、「1酵素-1基質-1サイト」のメチル化反応を指標に、阻害剤の構造最適化が進められてきた。一方、我々の研究グルー プでは天然のメチル源であるS-adenocylmethionine (SAM) より設計したProSeAM (propargylic Se-adenosyl-L -selenomethionine) をプローブとして用い、タンパク質メチル化反応の網羅的検出法を開発してきた [課題1]。本年度は、この検出系を基盤として、タンパク質メチル化阻害剤が「どのタンパク質のメチル化を、どの程度阻害するのか」をプロテオームレベルで評価する新手法を開発した [課題2及び3]。即ち、syn-HyPA-ETP2は、これまで開発がほとんど報告されていない非ヒストン基質に対し、より選択的に修飾反応を阻害することを明らかとした。質量分析を用により、syn-HyPA-ETP2の標的基質についての検討を行い、syn-HyPA-ETP2はリジン(K)よりもアルギニン(R)残基に対して、より選択的にProSeAMによる修飾反応を阻害することを示すことができた。さらに、同定した非ヒストン基質候補の中から、タンパク質HNRNPK(heterogeneous nuclear ribonucleic protein K)に着目し、精製したアルギニン残基のメチル化酵素PRMT-1/基質(HNRNPK/SAM)を用いて検証実験を行った結果、syn-HyPA-ETP2は、HNRNPKのメチル化反応を濃度依存的に阻害することを示した。
2: おおむね順調に進展している
独自の検出系を基盤として、新規タンパク質メチル化阻害剤の標的基質/標的サイトを同定する手法を開発することができたため。
LC/MS-MS解析により報告されているメチル化修飾サイトの数と比較すると、我々の手法で検出できるタンパク質は少なく未だ紐付けることのできていないメチル化反応が埋もれている可能性がある。今後は、これらの問題点を本質的に解決することを目指し、プローブの構造展開、評価系の最適化等の多角的な視点で検出感度の更なる効率化に取り組む。さらには改良型検出系を基盤として、既知のメチル化阻害剤に加え、独自に構造展開を行なっているメチル化阻害剤候補化合物についてそれぞれで活性評価を行う。更に様々なタンパク質が共存するプロテオームレベルにおいて、優れた選択性を示 すメチル化阻害剤の開発を目指す。
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