研究課題/領域番号 |
17H02219
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
平林 敏行 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 脳機能イメージング研究部, 主幹研究員(任常) (60376423)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 霊長類 / 化学遺伝学 / 脳機能イメージング / 記憶 / 電気生理学 |
研究実績の概要 |
本年度は、まずマカクザルに非空間的な視覚短期記憶課題を学習させた。この課題では、試行の最初に呈示される見本図形についての記憶を保持し、遅延期間の後に呈示される2つの選択図形のうち、見本図形と同じもの選ぶと正解として報酬が得られる。用いる図形は全部で30種類とし、それらを繰り返し呈示する事で、呈示図形に対する親近性のみでは課題を解けないようにすると共に、これらの図形についての長期記憶が形成されるようにした。課題訓練の完了後、15O-H2O PETによる脳血流計測を用いた全脳の機能マッピングを行った。ここでは、記憶課題における遅延期間の長さに依存した活動を示す脳領域を同定する為、2種類の遅延期間で課題を行わせた。遅延期間のみが異なる同一課題の2つの条件間で脳活動の差分を算出する事で、呈示図形に対する視覚応答や図形選択時における手の到達運動等に関わる活動をキャンセルし、記憶関連活動のみを抽出した。その結果、遅延期間が長い方の条件において有意に強い活動を示す領域として、非空間的な視覚短期記憶において重要な役割を果たす事が知られている下側頭皮質と、その領域との間に双方向性の解剖学的結合を持ち、下側頭皮質の制御に関わると考えられる眼窩前頭皮質の両領域が得られた他、認知的負荷に応じた活動を示す事が知られている前帯状皮質においても記憶関連活動が認められた。 また抑制性DREADDの効果を確認する為、マカクザルの機能的MRIにより左手人差し指の体性感覚刺激による第一次体性感覚野(SI)の活動領域を導出し、ウィルスベクター法により抑制性DREADDを遺伝子導入した。DREADDの発現をPETにて可視化、確認した後、DREADDアゴニストCNOを投与し把持課題を行った所、右手人差し指を用いた把持能力は正常なまま、左手人差し指を用いた把持能力のみが一過性かつ選択的に低下する事が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は予定していた通り、記憶課題の訓練を完了し、15O-H2O PETによる脳血流計測を用いた全脳の機能マッピングを行い、非空間的な視覚短期記憶に関わる有意な活動を示す領域として、眼窩前頭皮質と前帯状皮質、及び下側頭皮質を特定することができた。また抑制性DREADDの機能および動作を確認する為に体性感覚を用いたテストを行い、抑制性DREADDによってマカクザルにおいて行動レベルの障害が生じる事が確認された。これにより、次のステップである記憶課題における活動部位への抑制性DREADDの遺伝子導入に進む事ができる事から、本研究課題の進捗はおおむね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、同定された記憶課題における活動部位のうち、眼窩前頭皮質の活動部位に対して、ウィルスベクター法により抑制性DREADDを遺伝子導入する事で、眼窩前頭皮質の活動部位を抑制した際の課題成績の変化を調べると共に、15O-H2O PETを用いて、眼窩前頭皮質を抑制した際の全脳における記憶関連活動、及び領域間機能的結合の変容を調べる。さらに、下側頭皮質における神経活動を電気生理学的に調べ、眼窩前頭皮質の抑制の前後でそれを比較する事により、眼窩前頭皮質から下側頭皮質へのトップダウン信号の実体をニューロンレベルで捉え、視覚記憶を支える前頭葉ー側頭葉間大域ネットワークの作動を明らかにする。
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