研究実績の概要 |
ヒトを含む霊長類の高次認知機能は大脳皮質間の相互作用によって生み出されると考えられている。しかし、その検証技術が未開発なため、研究は国際的に停滞している。本研究では、先ず、霊長類神経回路操作技術を完成させる。次に、この操作技術を課題訓練サルに適用し、高感度の電気生理学と行動学実験を駆使することで、大脳皮質間相互作用による高次認知機能の制御メカニズムを明らかにする。申請者は、これまでヒト作業記憶に着目し、その制御において、腹外側前頭前野vlPFCが中枢であることを見出している(Higo et al., PNAS, 2011)。本研究では、vlPFCによる作業記憶制御を回路レベルで明らかにするため、侵襲実験が可能であり、ヒト脳と高い相同性を有するマカク属サルを用い研究を行っている。重要回路の同定には、回路を選択的に操作する技術が必要である。そこで、申請者は、まず、vlPFCと強い神経結合を持つ脳領野を特定するため、神経トレーサーCTBとウイルストレーサーをvlPFCへ注入し、神経解剖学的に検証を行った。結果、vlPFCは背外側前頭前野に強い神経投射があることを確認した。次に、シナプス情報伝達を遮断するタンパク質 (テタヌストキシン)を回路選択的、可逆的にvlPFC-背外側前頭前野間の神経投射に発現させる試みを行った。外科的AAV注入を行い、2ヶ月後に灌流固定を行い、摘出した大脳を免疫組織化学的に解析したところ、当該神経投射において投射特異的にテタヌストキシンが誘導されることを確認した。霊長類の大脳皮質におけるウイルスベクター2重感染による遺伝子発現制御の報告はまだ存在しないため、本研究の成果は霊長類の回路研究を国際的にリードすることが期待される。
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