研究課題/領域番号 |
17H02235
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 基樹 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (30273808)
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研究分担者 |
西浦 昭雄 創価大学, 経済学部, 教授 (00298217)
大山 修一 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (00322347)
尾和 潤美 中京大学, 国際英語学部, 講師 (00756926)
峯 陽一 同志社大学, グローバル・スタディーズ研究科, 教授 (30257589)
佐藤 千鶴子 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センターアフリカ研究グループ, 研究員 (40425012)
福西 隆弘 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センターアフリカ研究グループ, 研究グループ長 (80450526)
山田 肖子 名古屋大学, アジア共創教育研究機構(国際), 教授 (90377143)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 技術の模倣 / 技術の無償伝授 / インフォーマル部門 / 輸入品市場 / 中古製品市場 / 普通学校教育 / 職業訓練 / 土地の権利保障 |
研究実績の概要 |
2018年度は前年度の予備的調査の成果を踏まえ、アフリカにおける自生的で小規模零細な製造業の、外的条件としての市場や政府の政策、また内的要因としての組織編成や技術普及についてより詳しい考察を行った。具体的な現地調査対象国はケニア(現地調査2回)(対象業種:ソファ製造)、ザンビア(同:農産物加工)、南アフリカ(同:酪農・乳製品加工)、タンザニア(同:離乳食製造)、ガーナ(同:縫製)である。対象となったどの業種についても、その大半は政府に情報が登録されておらず、統計も作成されていないインフォーマルなもので、実態把握は必ずしも容易ではなかった。しかし、事業者や作業者など被雇用者へのインタビューにより、可能な限り事業体・事業所の数、事業者・作業者らの数・性別・エスニシティ・教育水準などの詳しい属性の把握に努め、各製造事業の生産工程を把握した。 そして、それぞれの事業の外的条件である市場については、各工程がどのように要素市場及び投入財市場とつながっているかに焦点を当てて調査し、土地市場の機能不全、フォーマルな資本市場との断絶、無償の技術伝授・模倣によって形成された半熟練労働の特定の地域におけるプール化、輸入品市場・中古市場との密接なつながりなどを明らかにした。 さらに政府の政策については、普通学校教育が必須となっているなど一定の役割を果たしているが、土地の権利保障や資本供給に見られるように全般的に不十分であることが明らかとなった。 組織について、様々な工程を内部に持つ少数の企業が組織的に拡大するのではなく、各事業者の生産規模は小さいまま、事業者数が増加していくかたちで生産の拡大が広く見られる。また、事業者と作業者などの間には固定的な雇用関係は希薄である。 技術については、職業訓練制度の貢献は限られ、技術の移転は広く無償である。そのことは上述の市場や組織のあり方と密接な関連があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画に沿ってアフリカの異なる地域・国における小規模・零細製造業の実例を数件特定し、調査を進めることができている。対象となった製造業の生産工程や関連の供給先について把握できている。さらに生産全体を差配する事業者、作業者、販売員の属性についても詳細に把握しつつある。 また、当初の想定通り、対象事業者の多くがインフォーマルかつ小規模・零細にとどまっていることが確認された。このことは、先行研究などで指摘されてきたアフリカの製造業事業者の特徴を捉えるのに適した事例を把握していることを意味する。この知見の延長上に、異なる業種に共通に見られる生産拡大は少数の企業の規模の拡大と組織の複雑化によるよりも、各事業者が小規模零細かつインフォーマルにとどまる一方で、事業者数が増えていく特徴的な形をとっていることが浮き彫りになってきた。これは当初の想定を裏書きしつつ、その上に得られた新しい知見である。 そして、当初設定した分析枠組みに従って外的条件としての市場と政府の状況、内的要因としての組織と技術について調査を行った。これによりアフリカの製造業の特徴的な拡大の形について、次のような仮説的説明が可能となった。各事業者は土地の権利の保障など政府の政策的下支えが十分でなく、市場も不安定なために不確実性に直面している。他方で、無償の伝授・模倣により生産の技術・知識が同業者間で容易に共有され、先行者の独占利潤を得ることが難しい。そのために組織の大規模化・複雑化が抑制されると推定される。 このように当初計画した通りの事例の特定、分析枠組みの適用によって、アフリカの小規模・零細製造業の状況・問題の想定が裏書されるとともに、その延長上に新しい知見が得られ、さらにはこの調査の新しい知見の合理的解釈が可能となる仮説を立てることができた。これは2年目までの成果としては当初の計画以上の進展だということができる。
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今後の研究の推進方策 |
3年目の2019年度は、引き続き各対象業種についてサンプルを増やし、また関係官庁、有識者などに聞き取りの対象範囲を広げて、知見の拡大深化、より多数かつ多様な出所からのデータによる検証を目指す。 具体的には、2年目までに得られた「各事業者が小規模零細かつインフォーマルにとどまる一方で、事業者の数が増えるかたちで生産が拡大している」という新しい知見、及びそうした状況は市場と政策という外的条件による不安定性と技術の無償普及によって生じているという仮説を、実証的な根拠に照らして検証していくことを主な課題とし、調査研究を進める。 上記の課題遂行のために次の4項目を重点的に行う。(1)土地の権利の保障など製造業生産の安定性にかかわる政府・自治体の政策の具体的な展開、及びその事業者への心理的影響についての調査、(2)投入財の供給や製品需要の変化についてのデータの収集、(3)技術の伝授、あるいは模倣が実際にどのように行われているか、それについて事業者・作業者等はどのように捉えているか、言い換えれば無償の伝授や模倣に関してこれを道徳的観点から肯定的に評価しているのか、あるいは功利的な観点から否定的に捉えているのかについての聞き取り・分析、(4)事業規模の拡大や組織の複雑化について事業者自身がどのように考えているかについての聞き取り・分析。 上記の4点に関しては、現地の詳しい状況や調査対象者の価値観をそれぞれの社会の文脈に即して多面的に捉えることが必要となる。そのためにはアフリカ諸国の政府や市場の関係者からの丁寧な聞き取りや、大学の研究者などアフリカ諸国の有識者からの協力と批判を仰ぐことが必要不可欠である。そこで、現地において現地研究者らとともに共同調査を行い、アフリカの大学等でセミナーを開いて、積極的に成果を発信する。さらに、日本においてアフリカの研究者を招いて国際ワークショップを開催する。
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