研究課題/領域番号 |
17H02241
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研究機関 | 名古屋商科大学 |
研究代表者 |
鎌田 真弓 名古屋商科大学, 国際学部, 教授 (20259344)
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研究分担者 |
村上 雄一 福島大学, 行政政策学類, 教授 (10302316)
長津 一史 東洋大学, 社会学部, 教授 (20324676)
加藤 めぐみ 明星大学, 人文学部, 教授 (30247168)
飯笹 佐代子 青山学院大学, 総合文化政策学部, 教授 (30534408)
内海 愛子 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 教授 (70203560)
間瀬 朋子 南山大学, 外国語学部, 准教授 (80751099)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | オーストラリア / インドネシア / 境界研究 / 越境移動 / 漁師 / 難民 / 国境管理 |
研究実績の概要 |
本共同研究は、東南アジアあるいはオーストラリアを研究対象とする研究者から構成され、「海境」を鍵概念として移動する人びとの視点から「境界」の多元性を実証的に描き出すことを目的としている。「東南アジア」と「オセアニア」で分断されてきた境域の研究に新たな視座を提供する上で、本共同研究は着実に成果を生み出しつつある。特に研究会は、東南アジア研究とオーストラリア研究の研究蓄積を共有し、情報交流をする上で重要な役割を果たしている。 研究協力者を含め10名のメンバーは、「辺境」に住む社会集団の変容や生存戦略、越境移動をする人びとの国家・社会集団への帰属意識や境界認識など、オーストラリア、インドネシア、マレーシア、シンガポール、日本のそれぞれの調査地域や調査対象とする人たちへの聞き取り調査、および史資料の収集を行った。さらに、中央政府の「周縁部」への政策やメインストリーム社会の対抗言説の調査も行った。調査地域は以下の通り。豪州(木曜島、シドニー、メルボルン、ブリスベン)、インドネシア(ロテ島)、マレーシア(サバ州)およびシンガポール、日本国内(志摩市、神戸市)。さらに訪問先では、研究関心が近いオーストラリア、シンガポール、インドネシアの研究者と研究成果に関する情報交換など研究交流を行った。さらに、日本国内では個人が所有するオーストラリアに移住した人たちの記録の発掘に努めた。新たな史料の発見もあり、関係者の許諾を得て史料の複製およびデジタル化による保存を行なった。 問題意識と研究成果を共有するため、研究会を3回東京で開催した。本報告の業績リストに記したように、各々の研究成果をもとに学会発表や論文執筆を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本共同研究は、当事者の視点から「境域」や「越境」の実態を捉えるという問題意識を共有している。したがって現地における当事者に対する聞き取り調査が研究の主軸となる。メンバーそれぞれの研究テーマに沿った対象グループ・地域での聞き取り調査、および史資料の収集は順調に行われ、新たな史料の発見もあった。 現地調査は以下の通り。(豪州)木曜島でのパプア人コミュニティに関する調査;ブリスベンでの文献収集;シドニー・メルボルンでの難民政策に関する調査、施設訪問、および難民・難民支援者への聞き取り調査、作家との面談;(インドネシア)ロテ島での漁師および難民申請者への聞き取り調査;(マレーシア)サバ州および(シンガポール)での海民の移動史に関する調査;(日本)豪州・パラオでの真珠養殖に関する志摩市での聞き取り調査、神戸市での村松治郎に関する聞き取りおよび史料調査。現地調査では現地の研究者と積極的な学術交流も図られた。 さらに、文献や公文書の精査に加え、市井の人々の記録の掘り起こしに努め、関係者の手元にある未出版の日記や記録・写真など、複製およびデジタル化による保存を行なった。その成果として木曜島で夫とともに商店経営をしていた榊原シゲ乃のオーストラリア強制収容所での日記を解説・翻刻。また、オーストラリア・コサックおよびダーウィンで商店経営と真珠貝業を営んだ村松治郎に関する新たな史料を発見し、豪公文書館・図書館に所蔵される文書とともに精査し、研究調査報告の作成に着手した。 研究会のテーマは以下の通り。第1回:本組織のメンバーに加え、豪州の研究者を招請して、村松治郎に関する調査報告を行った。第2回:豪州における難民の記録と表象に関する報告。第3回:インドネシア・ロテ島調査報告。また、各々の研究成果をもとに国内外の学会での発表、および論文発表、著書の公刊など、積極的な研究成果の発信を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き史資料の収集と分析、および聞き取り調査を行う。さらに、それぞれの調査結果を共有し、個人の成果報告の発表に加えて、共同研究としての成果報告の発表に向けての総括を行う。 インドネシア・ロテ島の調査では、地元の漁村の動態と豪北部海域に向けての出漁の推移が明らかにされつつあるとともに、難民申請をしつつ豪州への渡航の機会を待つ人々への聞き取り調査を引き続き実施する。また、インドネシアーオーストラリアの海域を漁場とする海民の生業の変化を現地調査で明らかにして、より包括的な視点から海民の移動史をまとめる。さらに、こうしたインドネシアからの漁民に対するオーストラリアでの認識や言説を分析する。他方、オーストラリアにおいては、元難民や支援者への聞き取り調査を実施し、国境管理の偏在性を明らかにするとともに、オーストラリア国内での難民に関する表象や対抗言説を分析する。 さらに、19世紀後半から20世紀半ばまで、オーストラリア北部海域で展開された真珠貝漁での日本人出稼ぎ者の動向やオーストラリアにおける日本人コミュニティの様態を、日豪で保存されている史資料を使って明らかにする。具体的には、「村松治郎」に焦点をあてて、当時のオーストラリア政府の政策、コサックやダーウィンでの真珠貝漁の事業内容や手続き、日本人出稼ぎ者の動向、商店経営と日本人コミュニティの関係性などを詳査し、日英両語での成果報告をまとめる。 こうしたそれぞれの調査結果を共有することによって、インドネシアおよびオーストラリアの「辺境」かつ「境域」における人びとの生存戦略や越境移動の動態を理解するとともに、オーストラリアの政策や言説を明らかにすることによって、「海境」の実態と偏在性を検討する。
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