研究課題
本研究では、医療における物語論の新たな展開に哲学的基礎づけを与える理論を体系的に構築することを目的に、4年間をかけて以下の4つの計画を実施するものである。計画1:医療分野での物語的実践の収集を(1)現象学的実践、(2)ケア的実践、(3)調停的実践について行う。計画2:哲学・倫理学領域における文献の収集を(1)「物語論」、(2)「関係性についての諸理論」の2系譜について行う。計画3:医療分野での物語的実践における「構成概念」の明確化を (1)ナラティヴ概念の定義、(2)語り手と聞き手の関係性の2つについて行う。計画4:医療分野での物語的実践における「他者への関与」の明確化を、(1)「自己物語」と「自己」の異同性とケアの成立要件の分析、(2)「物語の不調和」の扱い方についての規範倫理学的分析によって行う。計画5:シンポジウムの開催によって成果を開示して批判を仰ぐ。平成29年度には、このうちの計画1を実施した。(1)現象学的実践、(2)ケア的実践、(3)調停的実践について、多数の実例を収集することができた。このうち、(1)については、わが国における臓器移植レシピエントの実体験の理解、ハンセン病元患者の人生史の記述、(2)については、フィンランドで展開されているオープンダイアローグおよび未来語りのダイアローグ、(3)については、欧州で展開されている臨床における倫理的調整としてのmoral case deliberation(MCD)について、詳細に分析を行い、そのいくつかは論文・図書として刊行することができた。今年度も研究成果を随時刊行する予定である。
2: おおむね順調に進展している
(1)現象学的実践、(2)ケア的実践、(3)調停的実践の各々について、研究室所属の大学院生と共同で国内外の医療分野で行われている物語的実践の事例を収集した。臓器移植、ハンセン病、脳神経倫理、臨床倫理、看護実践の倫理等の各論についての論文・図書を刊行することができた。
平成30年度は、計画1を継続的に実施するとともに、計画2(哲学・倫理学領域における文献の収集)に着手する。医療における物語論の基礎づけに貢献しうる哲学・倫理学領域の文献は、(1)物語論と(2)関係性の諸理論の2系譜に大別できるため、これらを幅広く収集する。仏語と独語の言語の文献については、それぞれの言語で医療倫理に関連した文献収集に習熟した連携研究者(仏語文献:小出泰士、独語文献:浅見昇吾)の助力を得て収集と解読を行う。また、データベースによる資料収集を補うために、学術集会に参加して、国内外の研究者や実践者からの情報収集を行う。なお、今年度は成果を公開し様々な領域の専門家からの意見を聴くためのシンポジウムを開催する予定である。
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Eubios Journal of Asian and International Bioethics
巻: 27(6) ページ: 174-178
http://www.clg.niigata-u.ac.jp/~miyasaka