研究課題/領域番号 |
17H02261
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
宮坂 道夫 新潟大学, 医歯学系, 教授 (30282619)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 医療における物語論 / ナラティヴ / 哲学的基礎づけ / 解釈的実践 / ケア的実践 / 調停的実践 |
研究実績の概要 |
本研究では、医療における物語論の新たな展開に哲学的基礎づけを与える理論を体系的に構築することを目的に、計画1(医療分野での物語的実践の収集)、計画2(哲学・倫理学領域における文献の収集)、計画3(医療分野での物語的実践における「構成概念」の明確化)、計画4(医療分野での物語的実践における「他者への関与」の明確化)、計画5(シンポジウムの開催による成果開示と批判的回顧)を行うものである。平成30年度には、計画1、2、5を実施した。計画1、2により、多数の実践例と文献を収集することができ、実践分析として、①わが国における死を前にした人へのナラティヴ・アプローチ、②ハイリスク妊婦の主観的な「生活の質」評価、③祖母となった女性による孫育児への関与という、多様なテーマについて論文を刊行し、哲学的論考として、⑤オープンダイアローグと対話の文化についての論考、⑥医療現場における倫理(臨床倫理の方法論)についての論考を論文として刊行した。計画5として、「オランダの安楽死・最新の展開」をテーマとするシンポジウムを開催し、この問題についての議論を喚起し続けてきたオランダから研究者を招いて、本研究の観点からこの問題を考える機会を設けた。特に、オープンダイアローグと呼ばれる新しい対話のあり方について検討したことで、今後の研究への展開の有力な視点を得ることができた。これは、専門家の対話に患者らが「共在」(発言せずに傾聴する)し、次に患者たちの対話に専門家が「共在」するという過程を繰り返す「リフレクティング」と呼ばれるプロセスを繰り返す対話形式を基盤としている。対話のテーマは「自分たちの抱えている問題」であり、専門家同士の対話でも「専門家として抱えている問題」が話し合われる。従来の対話のあり方を変革する可能性を持つものであり、本研究の中でさらに検討する価値のあるものと思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)現象学的実践、(2)ケア的実践、(3)調停的実践の各々について、研究室所属の大学院生と共同で国内外の医療分野で行われている物語的実践の事例を収集した。対話の実践例の分析と、哲学的論考についての論文を刊行することができ、シンポジウムも開催した。これらを通して、計画4(医療分野での物語的実践における「他者への関与」の明確化)の一部にも手を付けることができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、計画2を継続的に実施するとともに、計画3(医療分野での物語的実践における「構成概念」の明確化)、計画4(医療分野での物語的実践における「他者への関与」の明確化)に着手する。医療における物語論の基礎づけに貢献しうる哲学・倫理学領域の文献は、(1)物語論と(2)関係性の諸理論の2系譜に大別できるため、これらを幅広く収集する。仏語と独語の言語の文献検討については、それぞれの言語で医療倫理に関連した文献収集に習熟した連携研究者(仏語文献:小出泰士、独語文献:浅見昇吾)の助力を得て収集と解読を行う。また、データベースによる資料収集を補うために、学術集会に参加して、国内外の研究者や実践者からの情報収集を行う。
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