本研究課題は、梶原三恵子(研究代表者)と手嶋英貴(研究分担者)が研究を分担し、藤井正人(所属機関の都合により2020年度に研究分担者から研究協力者に変更)をはじめとする研究協力者とともに、ヴェーダ期とポスト・ヴェーダ期の宗教・文化の共通基盤と重層性を解明せんとするものである。 第4年度(最終年度)である2020年度の研究実績の概要は以下のとおりである。2020年度はコロナ禍の影響により海外調査の中止など研究に大きな支障がでたため、研究課題を2021年度に繰越、2022年度に事故繰越を行った。以下の研究実績概要は繰り越した二年分のものも含む。 梶原は、「師から弟子が学び取ることによるヴェーダ聖典の伝承」という視点から研究を行った。キーワードとしたのが「ブラフマチャーリン」である。この語は、ヴェーダ初期から「ヴェーダ聖典学習者」という意味で用いられる一方、ヴェーダ中期からは性的禁欲者という意味も示しはじめ、さらには聖典学習者に限らない禁欲者をもさすようになる。この過程を文献に基づいて跡づけた。また、初期仏典でのこの語の用例を精査し、禁欲者あるいは広義の修行者という意味で用いられていること、ただしヴェーダ聖典学習者という意味では用いられていないことを解明した。 手嶋は、「転輪王」というキーワードを起点に、ヴェーダ期の王権儀礼、ポスト・ヴェーダ期の叙事詩における王の描写、仏教文献におけるブッダと転輪王の重なりについて研究を行い、それぞれの文化と時代における転輪王のイメージを浮き彫りにする成果を得た。 コロナ禍により海外調査は行えなかったが、そのぶん文献調査と成果執筆により多く時間をさくことが可能となった。梶原は単著『古代インドの入門儀礼』(2021年、法藏館)を、手嶋は藤井と共編で『ブラフマニズムとヒンドゥイズム』(2022年、全2巻、法藏館)を出版し、梶原もこれに寄稿した。
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