研究課題/領域番号 |
17H02280
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石井 剛 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (40409529)
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研究分担者 |
中島 隆博 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (20237267)
志野 好伸 明治大学, 文学部, 専任教授 (50345237)
小野 泰教 学習院大学, 付置研究所, 准教授 (50610953)
森川 裕貫 京都大学, 人文科学研究所, 特定助教 (50727120)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中国哲学 / 儒学復興 / マイケル・ピュエット / 葛兆光 / 近代 / グローバル化 / 伝統 / 中国性 |
研究実績の概要 |
三つ掲げた研究の目的のうち、1)「中国哲学のパラダイムシフトに関する研究動向把握」については、2017年10月15日に国際ワークショップ「東西文明の交錯と中国哲学:『The Path』をめぐるピュエット教授との対話」を実施した。同ワークショップには、中国(北京大学、中国社会科学院、中山大学)、韓国(延世大学)、シンガポール(南洋理工大学)から研究者を招聘し、世界同時出版された中国哲学に関するハーヴァード大学における講義録である、マイケル・ピュエット『The Path』に関して議論を交わした。その成果は中国の生活・読書・新知三聯書店から出版されることになった。 研究の目的2)「近代中国思想史におけるモダニティと伝統の相剋に関する研究焦点の確認」については、セバスチャン・ビリュ氏(パリ・ディドロ大学)と干春松氏(北京大学)を招聘して、「今日の中国における儒家復興と中国哲学の再定義」と題するミニシンポジウムを行った(2107年12月23日、中国社会文化学会との共催)。これは、中国民間社会における儒教復興現象に関する文化人類学的分析と、それに対する中国哲学研究内部からの応答に関する報告と討論である。また、UTCP Trans-Asian Humanities Seminarを立ち上げ、合計6回開催した(東京大学共生のための国際哲学研究センターとの共催)。これによって、さまざまな側面・視点から中国近代思想史に関する知見を得ることができた。 研究の目的3)「中国と周辺地域を含むユーラシア地域構造変動に関する思想的考察」については、共同研究会において、葛兆光氏(復旦大学)の「中国三部作」と称される『宅茲中国』、『何為中国』、『歴史中国的内与外』を講読し、議論を行った。2017年12月18日には葛兆光氏自身を招聘し、氏の最近の見解を交えながら、テクストの内部に分け入った討論を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画以上に進展していると評価される理由は、マイケル・ピュエット氏(ハーヴァード大学)の著作『The Path』をめぐる国際ワークショップにおけるディスカッションに対して、中国の学術出版社最大手の一つである生活・読書・新知三聯書店が関心を持ち、成果集の出版について具体的に準備が始まったことによる。ハーヴァード大学で履修者数第3位を記録したという授業の講義録であり、アメリカにおける中国哲学に対する関心の高まりを体現している同書に対して(日本では『ハーバードの人生が変わる東洋哲学』として早川書房から2016年に出版)、中国・韓国・シンガポール・日本という、それらの文化伝統において中国哲学が根づいている地域から共同でレスポンスを行うこと自体の意義が高く評価されたのだと言える。出版が実現した際には、東アジアと欧米とを結ぶさらなる哲学論、文化論が展開されるものと大いに期待することができよう。とりわけ、中国哲学にアプローチする際に文化人類学的視点が有効であることが、このワークショップにおいて再確認された。この後に開催されたセバスチャン・ビリュ氏と干春松氏を招聘して行ったミニシンポジウムは、かかる視点を今日における中国民間の儒学復興という側面において応用する試みであった。 このほか、「中国とは何か」という問いを歴史学の角度から丹念に論じていることで世界的に注目を集めている葛兆光氏との直接対話が実現したことも、当初の予定を超えた達成であった。 UTCP Trans-Asian Humanities Seminarや共同研究会は当初の予定どおり順調に進捗しており、今後も継続していくことが予定されている。 ただし、上記ワークショップにおいて、予定されていたマイケル・ピュエット氏の参加が、氏の校務に制約された結果キャンセルされることになった。このことは不可抗力であるとは言え、予定外の事態であった。
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今後の研究の推進方策 |
マイケル・ピュエット『The Path』は、「礼」という概念に対する新しい解釈の可能性を開くことにより、中国哲学をプロテスタンティズムの倫理観によって形成されてきた西洋近代との対話対象へと読み替えている。このことは、中国哲学に根ざしながら形成されてきた東アジアの文化伝統に対して、知的な側面のみならず、身体的な側面においても再検討の必要を迫っている。同書をめぐる国際ワークショップを東アジア諸地域の研究者とともに開催したことにはそうした必要性に応えるという重要な意義があった。今後はこれを踏まえて、西洋(とりわけ北米)においてカントを継承しつつ行われてきた政治哲学が中国哲学との間においていかなる対話の可能性を有しているのかについて、さらなる研究が求められる。その際、中国哲学からも北米政治哲学からも多大な影響を受けつつ、しかも一定の距離感も有している日本の学術的土壌は、従来見られた東西文明比較のような安易な二元論に陥ることを回避するために有効な相対的視野を提供しうる。本科研費研究の意義の一つはこの点にあるだろう。 以上の観点を「世界から見た中国哲学」に対する関心であるというならば、今後の研究においては葛兆光氏の議論を踏まえつつ、「中国哲学から見た世界」についてもさらなる検討を加えていきたい。葛氏の議論は「中国」概念の地理的・文化的・政治的変遷を歴史的に丹念にたどりながら、「中国性」とは何かを継続的に思索している。その議論の先には、中国的世界秩序観をどう批判的に認識するのかという問題が横たわっている。そこで、葛氏の議論と並行して活発に行われている「天下」思想に対して、本科研費研究においても検討を加えていく。特に、「天下システム」論を提唱する趙汀陽氏の議論が不可欠な検討対象となるだろう。 総じて、「世界から見た中国哲学/中国哲学から見た世界」という視点の二方向性を今後の研究の核に据えたい。
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