研究課題/領域番号 |
17H02280
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石井 剛 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (40409529)
|
研究分担者 |
中島 隆博 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (20237267)
志野 好伸 明治大学, 文学部, 専任教授 (50345237)
小野 泰教 学習院大学, 付置研究所, 准教授 (50610953)
森川 裕貫 関西学院大学, 文学部, 准教授 (50727120)
田中 有紀 立正大学, 経済学部, 准教授 (10632680)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 中国哲学 / 政治哲学 / 言語思想 / 大同主義 / 国際朱子学 |
研究実績の概要 |
2018年度は、国際会議として、(1)「言語、想像力、政治:東洋の民族的思考と実践における言語」ワークショップ(国立政治大学(台北)にて2018年5月19日に開催)、(2)中山大学(広州)、延世大学(ソウル)との合同による「19世紀末から20世紀はじめの東北アジアにおける知の再構成:社会進化論と大同主義を中心に」(延世大学にて2018年7月8日開催)、(3)「中国哲学の新しい地平を語る」座談会(東京大学にて2018年10月7日開催)、(4)「朱子学と普遍性」国際学術シンポジウム(東京大学にて2019年1月12日に開催)の四つを主催または共催した。これらのうち、(3)は2017年度の主要研究活動に挙げていたマイケル・ピュエット氏(ハーヴァード大学)の中国哲学研究へのレスポンスが継続されたもので、昨年度はかなわなかったピュエット氏の参加を得て、北米の政治哲学と中国哲学全般の歴史とアクチュアリティ、課題について闊達な議論が行われた。(2)はそのピュエット氏の著作The Pathの国際合評会を行った研究協力コンソーシアムによる年次シンポジウムである。 また、研究分担者を中心に行う読書会も継続し、Stephen C. Angle, Contemporary Confucian Political Philosophy: Toward Progressive Confucianism, Cambridge: Polity Press, 2012、ならびに、趙汀陽『天下的当代性:世界秩序的時間与想像』(中信出版社、2016年)の講読を行った。 海外からの講演者としては、陳少明氏(中山大学)を招聘し、「訓詁から義理へ:清代漢学の哲学的方法について、戴震と章炳麟を手がかりに」(2018年12月8日)を学習院大学にて開催した。 総じて今年度は「中国哲学のグローバル化」をテーマとして研究活動を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度は当初掲げた年度テーマの「中国哲学のグローバル化」に沿って、国際的な研究ネットワークに基づいた研究活動とドメスティックでかつインテンシヴな科研費内部読書会活動という主に二つの活動を行ってきた。既存の研究ネットワークは東アジア地域で中国哲学研究を支えてきた中堅世代を核とするものだが、国際朱子学シンポジウムでは、次世代の若手研究者主体の研究交流が行われ、「グローバル化する中国における現代思想と伝統の研究」という方法論の枠組みがより広く共有されることができた。とりわけ特筆されるべきなのは、前年度に招聘が実現しなかったマイケル・ピュエット氏との交流が実現できたことであり、英語によるこの研究交流においては、日本国内の研究者のみならず、北京大学、メリーランド大学、国立台湾大学、東北師範大学などの研究者も交えて、「中国哲学のグローバル化」というテーマにふさわしい刺激的な議論が交わされた。この交流については、内容を整理した上で、今年度さらに研究を加えていき、やがては多言語による出版に結びつけていきたい。その展望として、まず中国語への翻訳が完了するとともに、具体的に出版社との検討も始められ、年度当初には予期しなかった重要な成果が挙げられたということができる。 次に、読書会についてであるが、英語と中国語の研究書を講読し、グローバル化時代における中国哲学の諸相を確認することができた。なかでも、「天下」なる概念が、中国哲学を端緒とする新たな哲学概念として、政治哲学的、歴史哲学的に重要な意味をもつものであることが確認された。さらに、これは近代東北アジアにおけるコスモポリタニズムとしての「大同主義」とも比較対照されることによって、思想史的な意義の探求も可能な概念である。中山大学及び延世大学との合同シンポジウムの論題がこうして読書会の成果と有機的に結びついたのは当初予想していない結果であった。
|
今後の研究の推進方策 |
「グローバル化する中国」という現象を所与の条件として、現代思想と伝統との有機的結合について研究を進めるという本科研費の課題は、これまで特に哲学分野を中心に推進されてきた。それは、中国哲学という地域的な限定を付与された哲学の一分野が、もはやその限定内部に自足していては「中国」の「グローバル化」という今日的アクチュアリティに対応できないであろうとの危機感に根ざすものであった。実際、この課題研究を推進してきた2年間に得られた知見を総合するに、「中国哲学」なるディシプリンの枠組みと構造自体が、すでにその外部からも,内発的にも動揺を来たし、新たな転換を迎えつつある現実が明確にとらえられた。このことは同時に、ギリシャを起源とすることに正統性を見出す一般的な「哲学」と、そうではない地域哲学としての「中国哲学」との双方に関して、領域と境界を問いなおしていくことが必要となるだろう。 このような認識に立ちつつ、2019年度の年度テーマを「世界哲学と中国哲学」に設定した。具体的な研究実施計画に関しては2019年度交付申請書にて詳述するが、本科研費研究においては、今日的状況に対するアクチュアルな問いを立てつつ、中国哲学の変容と発展を思想史的な回顧と展望を踏まえつつ叙述していくようにしたい。 同時に、全体で4年の本研究課題が後半に入ることを機に、研究成果の発進について具体的に検討を進めていく。国際的な研究交流活動と最新の研究成果を世界からピックアップして渉猟することが本研究の両輪をなす主要な方法であるが、これまでに行われた交流と講読してきた文献を整理しながら、国際的な成果発信のみならず、わが国の中国人文学研究にも広く貢献できるような出版計画を練り上げていきたい。またその際には、研究者コミュニティの世代構成にも配慮する必要があるだろう。特に若手研究者の研究活動への参加をより積極的に促すよう方策を考えたい。
|