研究課題
1492年に達成された国土再征服と、新大陸航路の発見という二つの重大事を象徴的な契機として、ヨーロッパの周縁に位置したスペインは、16 世紀を通して広大な帝国を構築する。その帝国は、アイデンティティを異にする様々な人びとを統合する文化の交通空間であり、そこでは、多様な図像文化や造形様式、技法・素材が、時に起源の差異を超えて組み合わされ、あるいは、本来とは異なる意味のもとに解釈・転用された。本研究は、スペインを中心とするイスパニア世界に成立した、その「境界的」な美術の諸相を、歴史的な経緯と地理的広がりの両面から体系的に明らかにする。本年度は計画の初年度として次のような研究課題に取り組んだ。1)国際研究ワークショップ: 2017年11月3日に九州国立博物館において「桃山の日本とアジア・太平洋海域における美術の交通」と題する国際研究ワークショップを開催した。これは研究代表者・岡田が関わった展覧会「新・桃山展 大航海時代の日本美術」と連携したもので、とりわけ帝国スペインにおける美術の交通について、アジア・日本との関係に焦点を絞って、第一線の研究者の知見を集め大きな成果を得た。2)国内研究会: 分担者全員が集合する研究会を5月27日と12月17日、いずれも国立西洋美術館において開催した。ここでは、研究代表者から研究計画全体について展望を示した後、各分担者から各個研究のテーマについてそれぞれ報告を受け、問題意識の共有を図った。分担者の各個研究は、中世末におけるイスラム建築の転用の実態、その一方における同時代の絵画のイスラムとの関わりの希薄さの問題、16世紀スペイン宮廷における国際的交渉の検討、同時代の宗教絵画における「スペイン的なもの」の形成の過程、などの方向性に沿って、具体的な研究課題を明確にすることができた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は計画通り、研究代表者・岡田が関わった展覧会「新・桃山展 大航海時代の日本美術」と連携した国際研究ワークショップ「桃山の日本とアジア・太平洋海域における美術の交通」を開催し、国内外の関連研究者多数の参加も得て大きな学術的成果を挙げることができた。また2回にわたり開催した国内分担者の研究会では、各個研究について順調な進展がみられた。分担者の海外調査については、予定通り一名がスペインにおいて実地調査をおこない、所期の目的に沿った成果を得た。また、新年度に向けては海外共同研究者の招聘と関連する研究行事についての準備が順調にするんでいる。以上の点から、研究計画はおおむね順調に進展しているものと判断する。
当面は分担者が順次、海外での実地調査を重ねつつ、各個研究の資料収集を行う。2018年度は分担者・久米純子と川瀬佑介が、それぞれスペインに出張の予定。その成果は、関連分野のゲストも交えた研究会において共有、深化させる。今年度も2回の国内分担者研究会を開催の予定。同時に、2018年度は海外共同研究者である川村やよい(オビエド大学)とマリア・フェリシアーノを招聘し講演会、ワークショップを開催する。これらを通して、国内分担者の研究上の視野を拡大するとともに、その成果は最終的な成果出版に収録の予定である。
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