研究課題/領域番号 |
17H02295
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研究機関 | 恵泉女学園大学 |
研究代表者 |
稲本 万里子 恵泉女学園大学, 人文学部, 教授 (20240749)
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研究分担者 |
片桐 弥生 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 教授 (10204421)
高松 良幸 静岡大学, 情報学部, 教授 (40310669)
龍澤 彩 金城学院大学, 文学部, 教授 (00342676)
本田 光子 愛知県立芸術大学, 美術学部, 准教授 (80631126)
高岸 輝 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (80416263)
三宅 秀和 群馬県立女子大学, 文学部, 講師 (50788875)
小長谷 明彦 東京工業大学, 情報理工学院, 教授 (00301200)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 源氏絵 / 美術史 / 源氏物語 / データベース / オントロジー / 画像認識 / 深層学習 / 仮想現実 |
研究実績の概要 |
2018年度も引き続き、源氏絵データベース構築班、源氏絵調査班、史料調査班、AI班、源氏絵(模本、工芸品を含む)の所在確認班に分かれて研究をおこなった。 源氏絵データベース構築班は、3作品191枚のスライドをデジタルデータ化した。源氏絵調査班は、名古屋市博物館、東京国立博物館、堺市博物館、貝塚・個人、東京富士美術館の5箇所の美術館・博物館および個人宅で23作品の調査をおこない、メトロポリタン美術館で開催された源氏絵展を見学した。調査参加者は延べ30人である。史料調査班は、源氏絵の注文主と詞書筆者のネットワークを探るため、京都・下橋家、上賀茂神社、同社社家にて史料調査をおこなった。AI班は、人工知能学会第32回全国大会にて画像認識とVRの研究成果を発表した(加藤拓也・稲本万里子・小長谷明彦「深層学習法による源氏絵の流派推定」、津野駿幸・稲本万里子・小長谷明彦「仮想空間上の灯明光源効果を用いた時代屏風の再現」)。その後、画像認識にかんしては7回の検討会をおこない、VRにかんしては「時代屏風」から「源氏物語図屏風」に画像を差し替え、研究を続けた。画像認識同様、くずし字を認識させて「源氏物語絵巻」の詞書を解読する研究と、光源氏の邸宅である六条院をVRで再現する研究に取り組み、京都市平安京創生館、宇治市源氏物語ミュージアム、風俗博物館にて平安京復元模型、六条院模型、六条院の春の御殿の模型を360度カメラで撮影した。画像認識、くずし字解読、「源氏物語図屏風」のVR制作、六条院のVR制作の研究成果は、第4回源氏絵データベース研究会にて発表した。 さらに、2018年12月に第3回源氏絵データベース研究会(於徳川美術館)、2019年2月に第4回源氏絵データベース研究会(於東京工業大学)を開催した。参加者は、それぞれ12人(うち科研メンバー6人)、13人(同4人)であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、AI班の研究が大きく進展した1年であった。画像認識にかんしては、人工知能学会第32回全国大会での研究発表が、全国大会優秀賞を受賞した。その後、現在までに10回の検討会を開催し(うち2018年度は7回)、深層学習の方法論、バリデーションデータとテストデータの検討を重ね、絵師の流派を推定することが可能になった。この間、産経新聞とNewtonから取材を受け、産経プレミアムとNewton別冊『ゼロからわかる人工知能 仕事編』に記事が掲載された。深層学習法を使ったくずし字の解読は、仮名だけの語句は80%、漢字仮名まじりの語句は60%を解読できるようになった。VRにかんしては、学会発表後、東京富士美術館所蔵の岩佐派「源氏物語図屏風」に画像を差し替え、美術館における鑑賞教育に使用できるよう各場面の解説を入れたヘッドセット版とWeb版を制作した。六条院のVRにも『源氏物語』にかんする解説を入れ、ヘッドセット版とWeb版を制作している。また、恵泉女学園大学スプリングフェスティバルにてVR体験コーナー設置し、科研のアウトリーチをおこなった。 源氏絵調査班は、5箇所23作品もの源氏絵調査をおこなうことができた。史料調査班は、幻の「源氏物語絵巻」の注文主に焦点を絞り、研究を進めている。さらに今年度も、年1回の開催予定であった源氏絵データベース研究会を2回開催することができた。第3回は、研究会メンバーによる報告(四辻秀紀「修理で確認できた国宝源氏物語絵巻の姿」)と「源氏物語の世界―王朝の恋物語」展見学、第4回は、AI班の研究発表とVRデモンストレーションをおこなった。科研メンバー以外の研究会メンバーも多数参加し、VRの解説についての意見交換もあり、盛会であった。ただし今年度は、旅費が嵩んだため、デジタルデータ化の費用を捻出することが難しかった。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度も、源氏絵データベース構築班、源氏絵調査班、史料調査班、AI班、源氏絵の所在確認班に分かれ、調査・研究を進める。 源氏絵データベース構築班は、夢浮橋までの場面一覧をオントロジー言語で記述し、2000枚のスライドをデジタルデータ化し、デジタルデータ化した画像をアップロードし、タグ付けすることを目標とする。場面比定が難しい作品が堺市博物館に寄託されていることが明らかになったため、作品を前にした検討会を開催する予定である。源氏絵調査班は、西日本豪雨災害で延期した中国地方の源氏絵と、狩野派の源氏絵を中心に、調査・研究をおこなう。史料調査班は、幻の「源氏物語絵巻」の注文主についての研究成果を執筆する予定である。AI班は、5月に東京富士美術館所蔵「百花繚乱 ニッポン×ビジュツ展」記者発表会にて研究成果を発表し(稲本万里子・小長谷明彦「AIとVRによる源氏絵の研究と鑑賞」)、人工知能学会に画像認識の論文を投稿し、人工知能学会第33回全国大会にてくずし字解読の研究成果を発表する(Xiaoran Hu, Mariko Inamoto, Akihiko Konagaya,Recognition of Kuzushi-ji with Deep Learning Method: A Case Study of Kiritsubo Chapter in the Tale of Genji)。5月の記者発表会と、8月~9月の京都文化博物館、国際博物館会議京都大会では、灯明で見る「源氏物語図屏風」のVRデモンストレーションをおこなう予定である。所在確認班も昨年度同様、学芸員のネットワークを生かし、源氏絵の情報収集に努める。 さらに2019年度は、一般公開型のミニシンポジウムを開催し、室町時代の土佐光信から光茂、光元による図様と様式の継承関係、および土佐派正系絵師による源氏絵と周辺絵師による源氏絵の差異について討議する予定である。
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